6 現存するマシン
 

 1973年〜1998年に存在が明らかになった6気筒は主に以下のものである。エンジン番号/フレーム番号の大半は私が確認したものであり、読み取りミスの可能性はある。

(1)1973年
 
ホンダ創立25周年記念行事の一環として荒川テストコースで1960年代のRCレーサーが再公開され、その中には2台の6気筒があり走行も行った。左のゼッケン12(青地に白数字の350ccクラス)と右のゼッケン14(緑地に白数字の250ccクラス)で、左のライダーは故隅谷守男である。左のマシンのフェアリングは1967年日本GP350ccクラスでブライアンズが乗ったマシンと同じ特徴がある。右のマシンのフェアリングは1965年日本GP時のものだ。
    青ゼッケン          緑ゼッケン
 
  そしてその後に雑誌の取材に供された下の2台のマシンを比較すると、下表のとおり2台のフレーム等が異なる。これらを識別点に荒川テストコースで公開されたマシンと対比すると上左の青ゼッケン(350ccクラス)が下左、上右の緑ゼッケン(250ccクラス)が下右に酷似していることに気がつく。ただ燃料タンクは上左の青ゼッケンは下右に、緑ゼッケンは下左に似ている。おそらく荒川テストコースで公開した後、雑誌の取材時に燃料タンクを交換したのだろう。
雑誌説明はRC166 雑誌説明はRC174
カムシャフトケースのエンジンマウント位置(前/後) 中央/やや後方 後端/やや後方上部
エンジン搭載位置 高い 低い
カムシャフトケースカバーの色 銀白色 黄色
排気管 直線的 やや曲線的
シートレール バックボーン接合部からすぐ上に伸びに水平になる。 バックボーン接合部からゆるやかに上に伸びシートレール後端との中間あたりで水平になる。
排気管ステー接合部 シートレール シートレール-スイングアームピボット部間のパイプの上部
リアクッションユニット長 長い 短い
前ブレーキ径
前フェンダー 写真のとおり 写真のとおり
備考 右端気筒の排気管に窪みあり

 1966〜67年の250cc、297ccには少なくとも2種類のフレームがある。実戦写真で確認すると上の左のマシンのフレームは297cc用、右は250cc用である。また、前フェンダーは、上左のマシンのものが297cc用、上右のマシンのものが250cc用である。例外は1967年東ドイツGPでヘイルウッドが乗ったマシンで297ccマシンに250cc用前フェンダーを装着していた。リアクッションユニット長は250ccは基本的に長く、297ccは短いものと長いものがあり、短いものは第3戦オランダ以降で確認でき交互に使用されたようだ。

(2)1978年
 11月25日、荒川テストコースでRCレーサーが走った。荒川テストコースが閉鎖されることに伴うイベントで、6気筒は2台が姿を見せた。左の350ccクラスのゼッケンのマシン(ライダーは田中髀)は(1)の左のマシン、右の250ccクラスのゼッケンのマシンは(1)の右のマシンと同一だと思われる(雑誌の取材に供された、燃料タンク交換後のもの)。 
(3)1980年
 鈴鹿サーキットで行われた「ホンダモータースポーツ展」でRC166E-102/RC174F-301が展示された(右)。エンジンの打刻は250ccエンジンであることを示し、フレームは外観上も打刻も297cc用、ゼッケンの色、前フェンダーも297cc用である。(1)の左のマシンによく似ているが、フレームのプラーク(フレーム番号の銘板)の貼られた位置、フェアリング等は異なり、別のマシンだと思われる。   

(4)1980年頃
 ヘイルウッドが幾つかのイベントで297cc6気筒に乗ったが、ヘイルウッド自身が保存していたマシンと思われる。1981年のヘイルウッドの死後、マン島の「ア・ラップ・オブ・オナー」でトミー・ロブが乗った297cc6気筒も同じマシンだろう。フェアリング形状からするとヘイルウッド自身が1968年にイギリス国内レースで乗った1968年型マシンそのもののようだ。
  左は1980年オランダGPでのヘイルウッド。


(5)1983年
 
2台の6気筒が日本GP20周年(4輪)のイベントの中で走行した。250ccクラスゼッケン(左)には高橋国光、350ccクラスゼッケン(中、右)には北野元が乗った。いずれもフレームは297cc用であり、前者は(3)のマシン、後者は(1)の左のマシンと思われる。その後、ゼッケン番号を変えて何回か雑誌の取材に供された。
 
 (6)1984年
 
CLASSIC MOTORCYCLE RACER TESTS(by Alan Cathcart, Osprey1984) によりホンダ・カナダがRC174E-301/RC166F-102を保有していることが明らかになった(実はこのマシンは1977年、カナダでのF750レースの際にデモ走行した)。エンジン打刻は297cc、フレームは250ccであることを示している。記事では250ccとなっている。

(7)1989年
 マン島でルイジ・タベリがRC166E-102/RC174F-302 に乗り1周走った。外観は(3)のマシン、(5)の250ccゼッケンのマシンと同じだが、(3)のマシンとフレーム番号が異なる。

(8)1990年
 1月の鈴鹿サーキットファン感謝デーで2台の6気筒が展示された。いずれも(5)のマシンとゼッケン番号が異なるだけである。また、1991年には雑誌の取材に供された。250ccのゼッケンのマシンは(7)のRC166E-102/RC174F-302と思われる。350ccクラスゼッケンのマシンのフレーム番号はRC174F-301
 このように(3)のRC166E-102/RC174F-301と1983年以降に公開された(5)、(7)、(8)のRC166E-102搭載車とはフレーム番号が異なる。これは、2台の297フレームのプラークの貼られた位置からすると、(私が(3)のフレーム番号を読み間違えたのでなければ)レストアの際にフレーム番号のプラークを取り外し、新たに製作したプラークを再装着する際にプラークとフレームの組合せを変更したものと思われる。
  
 つまり、現存するRC174F-301は実はRC174F-302、現存するRC174F-302は実はRC174F-301の可能性がある。
(9)1993年
 
アメリカに本拠地を置くチーム・オブソリートが250cc6気筒を所有していることが明らかになった。1966年にスチュアート・グレアムが使用した2RC165E/RC165Fだと思われる。また、1969年のドイツGPのプラクティスでGerhard Heukerottが乗っている(250ccクラスが2気筒までに制限されたのは1970年である)。ただし、シリンダーヘッドはRC165Eのもの。スイングアームピボット部-シートストッパーのパイプが角張っているが、レストアの段階で補修されたのだろう。

(10)1994年
 コレクションホールで次のマシンが確認できた。「RC165-102」(165の次に「E」の文字はない)は、ブライアンズが1967年に使用したものではないだろうか。RC174E-301/RC166F-102がカナダから里帰りし、そのエンジン、フレームが日本にあったフレーム、エンジンと組み合わされたものと思われる。

RC165-102 RC166E-102/RC166F-102 RC174E-301/RC174F-301(実は302?) RC174E-305

(11)1998年 
 
個人がRC174を所有していることが明らかになった。エンジン番号はRC174E-801であり1968年型である。

 F1(4輪)も1968年からエンジン番号等の付け方が「RA○○○E(またはF)-8○○」という方式に変わった。「RA302」には2種類あり、1966年の1リッター4気筒のF2用エンジンの打刻は「RA302E-1○○」、1968年の3リッター空冷8気筒のF1用エンジンの打刻は「RA302E-8○○」である。
(12)1998年
 
スズカヒストリックミーティングで2台のRC174が走った。(10)の状態からエンジンが積み替えられたのだろうか。右のマシンのエンジンは「802」という打刻であり1968年型である。左のマシンのエンジン番号は確認できなかったがRC174E-301だと思われる。
-/RC174F-302(実は301?)     RC174E-802/RC174F-301(実は302?)

 なお、最近の状況については今のところ記す価値はない。新造された「動態保存」エンジンがどれだけ歴史を反映しているか分らないからである。

公開されたエンジン内部の写真は次のとおり。ピストン頂部が鋭角なものとそうでないものがある。

A 日本のレーシングモーターサイ
クルの歴史(1973八重洲出版)
B RC174E-306 C RC166E-102 D RC174E-802 E チーム・オブソリート
所有車
写真説明はRC174 写真説明はRC166 写真説明は2RC166 写真説明はRC174 写真説明はRC165
 
”RC166E-102”レプリカ、新造エンジン

排気側のカムシャフトケースカバーのエンジンマウント位置は67年仕様。(10)の写真とは異なる。



 Eを除き、いずれも外観から3RC165/RC166E系、RC174E系とわかる。3RC165Eはボア39o、系RC166はボア39oと41oがあり、RC174Eはボア41oである。B〜Dは左のようにシリンダーのスタッドボルトの位置12の線に半分ほど食い込んでいるが、Aは余り食い込んではいない。おそらく、Aは39oボア、B〜Dは41oボアだと思われる。
 また、ピストンも頭頂部が尖ったものと平坦なものがあある。


7 疑問点

 現存するRC174のエンジン、フレームの打刻はいずれも最後の3桁が「3○○」、「8○○」である。後者は68年型の意だろうが、前者はなぜ「3」から始まるのだろうか。「1」、「2」から始まるエンジン、フレームがあったのだろうか?

8 諸元等

いずれも推定を含む。

 

RC165E/RC165F 

2RC165E/RC165F 3RC165E/3RC165F RC166E/3RC165F(RC166F) 2RC166E/RC166F RC174E/RC174F
ボア×ストローク o 39×34.8 41×31.5 41×37.5
バルブ数 4
バルブ径(吸/排気) o 16/14.5 16.5/14 16.5/14 16.5/14 17.5/14.5 16.5(17)/14(14.5)
バルブタイミング(IO、IC、EO、EC) 度 30、40、35、35 ? ? 30、40、40、30 30、40、40、30 30、40、40、30
バルブリフト(吸/排気)  o 5/5 5/5 5/5 5/5 5/5 5.5/5
バルブ挟角 度 75
カムシャフト駆動方式 スパーギア
点火プラグ径 o 8
圧縮比 10.4 10 10.2 10.5 10 10.6
ピストンリング数、トップリング幅 o 2、0.8
クランクシャフト平均軸径 o 17.23 16.23 16.23 16.23 17.46 16.3
キャブレター ケイヒン ピストンバルブ/フラットバルブ20o ケイヒン フラットバルブ23o ケイヒン フラットバルブ22o(23o)
点火方式 トランジスタ/マグネト マグネト
最高出力PS/rpm 52/17000-54.3/17500 55/17500 57/18500 57.5/18500  59/18500 66/17000
変速機段数  7速
タイヤサイズ(前/後)  3.00-18/3.25-18 3.00-18/3.25-18
ブレーキ(前/後) 2リーディング2パネル/2リーディング 同左(前ドラム径拡大) 同左(前ドラム径さらに拡大)
エンジン開発開始時期 1963年12月 1964年11月 1965年8月 1965年6月 1966年3月 1966年8月
エンジン識別点 シリンダーヘッド冷却フィン 4枚 5枚
カムシャフトケース両横カバーのボルト 4本 3本
点火システム位置           エンジン後部駆動機構両側 エンジン後部駆動機構左側
ブリーザー   エンジン右後部 エンジン右後部ブリーザー拡大 エンジン後部点火システム駆動機構右側
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