3  1982年型カワサキKR500(603)     KAWASAKI

 1982年型のフレームはバックボーンタイプとなった。1980年型、1981年型のモノコックフレームもバックボーンタイプの変形といえるが、1982年型ではバックボーン部が細くなった。バックボーンが燃料タンクを兼ねているのは変わらないが、それだけでは燃料タンク容量を確保できないので、普通の燃料タンクがバックボーンを覆うように装着されていた。したがって、燃料タンクが2つ存在する。また、フレームの先端が脱着可能になっており、先端部を交換することでジオメトリーを変更できた。タイヤはダンロップで、前輪はシーズンを通して基本的に16インチタイヤが用いられた。
 その他、1982年型KR500について気が付いた点を述べる。 

(1)フレーム

 左はカワサキが保有する1982年型(TF603-8103)。このマシン(個体)が世界GPで用いられたかどうかは分らないが、外見上は世界GPで走ったマシンと同型。フレーム燃料タンク部に円形の窪みが3つあり、そこにダンパー(ゴム製クッション)が貼りつけられている。最先端の円形ダンパーの上に長方形のダンパーが貼られているが、GP実戦ではないものもある。
  シートレールは脱着可能。他の現存するマシン、実戦等での写真でシートレールの穴を確認すると、2種類のシートレールが存在したことになるが、単なる個体差なのだろうか。

  下左は1982年日本GP(鈴鹿での全日本選手権、レース本番は台風接近により中止)で清原明彦、徳野政樹に与えられたKR500のうちの1台。下中はフレーム燃料タンク部とその下部の接合部を拡大したもので、溶接接合部の上、左にボルトが幾つかある。下右は同型のマシン(下左と同一個体かどうかは不明)。これらはバックボーンの左右と上に補強板をボルト留したもののようだ。フレーム燃料タンク部の円形の窪みが見えないのはこのため。この補強フレームは世界GPでは確認できない。

(2)前フォーク

 
1982年型KR500の前フォークは3種類ある。何れも前車軸は偏心ホルダーで支えれており、ジオメトリーが変更可能である。
 下左は8103の前フォークで、伸、縮のダンピングが別々に調整可能のようだ。これをA型とする。 

 中はシーズン序盤、イギリス国内レースで撮影されたと思われるもので、前フォーク下前部から上部に伸びるパイプがある。これをB-1型とする。右は中と同様にパイプがあるがフォーク下端の形状が異なっており、これをB-2型とする。B-2型はB-1とは別の型なのか、B-1の下端を加工したものなのかどうかは分らない。

  A型、B型はシーズン当初から500t世界GP最終戦まで使い分けされ、最終戦(第12戦)ドイツでも2台のKR500にそれぞれ装着されていた。

 
 左は日本GPでの徳野政樹のKR500で、前フォークはA型、B型とは異なる。これをC型とするが、C型前フォークは世界GPでは確認できない。
 C型は1983年型KR1000の前フォークに酷似しており、1983年型KR1000用の、あるいは1982年に開発中だった1983年型KR500用の前フォークではないだろうか。右は現存する1983年型KR1000(フレーム番号TF605308)の前フォーク。

  なお、これらの写真で分るように前ブレーキキャリパーは1981年型とは異なる。カワサキの技術者だった平松氏のいう「四角いキャリパー」、「コークでテストしたら、効きすぎるから、不要でした。」は、このキャリパーのことだろう。

(3)前ディスクローター

 
1982年型KR500の前ディスクローターは3種類ある。2段上左(8103)の前ディスクローターは1981年型と同様、スリットが4本ある。これをA型とする。  
 1981年シーズン中盤以降、主に用いられたのは2段上右のB型で、ローター外側に開く長いスリットが6本あり、スリットとスリットの間、ローター中心寄りに穴が開いている。  

 上左(日本GP)の前ディスクローターはA型、B型とは異なり、ローター内側に開いている長いスリットが6本あり、その前後に短いスリットが各2本ある。このC型も世界GP中盤以降に用いられた。上右の1983年型KR1000の前ディスクローターも同型と思われる。

(4)スイングアーム

 スイングアームには何種類かあるようだ。左はアルゼンチン、右はスペインでのものだが、上下2本のパイプの間隔が異なるように見える。また、スイングアーム長の異なるものがあるようにも見えるが、写真の撮影角度による差の可能性もあり判然としない。



(5)排気管

 前気筒排気管(サイレンサーを除く)の長さからすると、少なくとも短型、中型、長型の3種類が確認できる。また、サイレンサーは短型、長型の2種類がある。下左は第9戦イギリスで排気管は短型、サイレンサーも短型。下右は同じくイギリスでの別のマシンで排気管は中型、サイレンサーは長型。

 
 シーズン当初は中型排気管のみだったが、第5戦イタリアで短型排気管が登場したようだ。サイレンサーはシーズン当初は長型のみで、おそらく第8戦ユーゴスラビアで短型が登場、シーズン後半は短型が主に用いられた。

 本頁の上から2段目左のKR500は長型排気管・短型サイレンサーで、長型排気管は公式の場に限れば日本GPでしか確認できない。   
 左は日本GP車検時の徳野のKR500で、短型または中型排気管・短型サイレンサー、右は同じくプラクティス中で長型排気管・短型サイレンサー。何れもサイレンサー後端に突き出しがあるが、世界GPでは確認できない。

(6)テールカウル

 2段上のイギリスGPの2台はテールカウルが異なる。上左はイギリスで登場した新型で、シート後ろに穴があり排気管が露出し、前端が前に伸びている。上右はシーズン当初から用いられたタイプで、テールカウルに穴がなく(写真では分りにくいが)前端が短い。本頁上から2段目左の日本GPのマシンも同型のテールカウル。

 なお、このテールカウルではタンク後端の下に排気管の前部が露出するが、シーズン当初はこの部分にアルミのカバーが装着されていた。右は第1戦アルゼンチンのもので、左中に写るのがシリンダーの排気口部。なお、燃料タンクが持ち上げられているのでフレームの一部が露出している。

(7)前フェンダー

 左はアルゼンチンGPプラクティス時で、前フェンダーの側面カバー型で横面が広く、ディスクローター冷却ダクトもある。レース本番ではフェンダー無で出走した。
 ダクトは脱着可能で、中(おそらくオーストリアGP)はダクトが外された状態。また、前フェンダー横面も脱着可能で、右(ベルギーGP)は横面が外された状態でフェンダー下端に横面装着用の穴がある。
 ただし、実戦では横面を装着できない通常型の前フェンダーが用意されることが多かったし、前フェンダーそのものが装着されないことも少なくなかった。

(8)エディー・ローソンのKR500

 
エディー・ローソンはAMAのレースでカワサキに乗り、1980、81年とスーパーバイクだけでなく250tクラスも走っていたが、1982年は250tではなくFORMULA ONE(AMA)をKR500で走った。
 最初のレースとなったデイトナ(下左)では1981年型が使用され、変速機故障でリタイア。フレーム燃料タンク部の孔はなく、元バリントン用または元国内テスト用マシンだろう。長型スイングアーム、短型排気管で、ステップがかなり後に移設されており、元の装着位置に穴が残っている。CDIローターは1981年シーズン前半型。
 下右はレース名不明だが、フレーム燃料タンク部に孔があり、元ハンスフォード車ではないか。

 シーズン中に2台以上の1982年型KR500が登場する。右はレース名不明だが、1982年型KR500の排気管は中型、サイレンサーは短型。テールカウルは旧型。前フェンダーは側面カバー型で、前フォークはA型のようだ。前ディスクローターはA型。写真は載せないが、中型排気管、通常型前フェンダーのマシンもある。

  デイトナの後、ロードアメリカではエンジン不調で遅れ、さらに燃料タンクキャップからガソリンがヘルメットにかかり視界を悪くするなどと問題があったが2位。ブライア・モータースポーツパークでは、KR500ではなくS1(4ストロークスーパーバイク)で出場。ラグナセカのヒート1はマシンにトラブルがあり、3周遅れでレースに加わった。ヒート2は27周目に転倒、リタイア。

(9)現存する(可能性のある)マシン

-/TF603-8203(番号は推定)
 Kork Ballington Shows Legendary KR500 - YouTube
 短型排気管、短型サイレンサーで、テールカウルは新型(穴開き型)。前フォークはB-1型で、前フェンダーは通常型、前ディスクローターはC型。

-/TF603-8207
 
Kawasaki KR500 Grand Prix Motorcycles | A Short History | MCNews
の後半/ゼッケン21のマシン。短型排気管、短型サイレンサーで、テールカウルは新型(穴開き型)。前フォークはA型から一部部品を取り外したもののようだ。前フェンダーは通常型で、前ディスクローターはC型。(7)のゼッケン21のマシンそのものと思われる。フレーム番号は元の番号を削り新たに打刻されたようだ。

-/TF603-8103
 本頁最初の写真のマシン。短型排気管、短型サイレンサーで、テールカウルは新型(穴開き型)。前フォークはA型、前ディスクローターはA型で、前フェンダーは通常型。
 その2で書いたように、1981年型のTF603-8103が現存しており、同じフレーム番号のマシンが2台現存しているが、1982年型のマシンのフレーム番号はなぜ”81”03なのだろうか?理由として次のことが考えられる。
●本来は「82」と打刻すべきところ、海外に送る際にカルネ等の書類に記載されていたフレーム番号を打刻した。
●「81」は製造年を表しており、たまたま1981年型と同じフレーム番号になってしまった。
 

 また、エンジン番号(上右)は「8303」の「3」の上に「1」を打刻したように見える。1982年に1983年型エンジンの開発を進めていたが、1982年実戦に登場させることになり、カルネ等に合わせて「3」の上から「1」を打刻したのだろうか? そうならば、フレームの「81」もカルネ等に合わせたように思える。

TE603-301                                                               
 カワサキワールドに展示されているエンジン(下左、下中)。上のマシンのエンジン番号(上右)はクランクケースの右後シリンダーが装着される部分にあり、番号がある部分の後のボルトはクランクケースをフレーム本体に繋げるブラケットに取り付けるもの。1983年に雑誌取材に供されたエンジン単体(下右、赤矢印)にはブラケットが取り付けられる部分がある。しかし、この301エンジンにはその部分がない。振動の問題でこの部分を使用しないフレーム用のエンジンなのか? エンジン番号301が打刻されていることからすると、1983年に向けセミモノコックフレームではないマシンの開発を進めており、この部分がないエンジンが製作されたのだろうか? 
 エンジン番号についていうなら、エンジン番号を打刻せずにエンジンを保管していたが、財産管理上、適当な番号が打刻された可能性はある。
 

ペンションシルバーストーンにあるKR500
 
検索すると多くの写真がある。B型前フォーク、C型前ディスクローター、通常型前フェンダー、旧型テールカウル、長型排気管、短型サイレンサーのようだ。

その他1
 下左は現存すると思われるKR500で、次の特徴から1982年日本GPでの清原のマシン(ゼッケン10)そのものではないかと思われる。
●フレームは82日本GP型(補強型)
●前フォークはC型
●前ディスクローターはC型
●排気管は長型、サイレンサーは短型で突き出しあり
●テールカウルは旧型

 下右はこれと同一個体と思われるマシンで、写真に「91.6.17」の日付がある。某所で整備中のようだ。

その他2
 下左、下右は1984年6月に伊藤モータース(当時、大阪府)で展示されたKR500で、テールカウルは新型(穴開き型)でフレームは確認できないが、それ以外の特徴は上記「その他1」と同じである。

その他3
 Kawasaki-KR500 (gun-fighter.com) ■KR250&KR500Gallery■ (gun-fighter.com) はセントラルサーキットで撮影されたもので、1998年、アッセンで行われたCentinnial Classic TTに清原明彦が出場するためにテスト中のようだ。マシンの特徴から「その他2」のカラーリングを変更したもののように見える。

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