2004年型YZR-M1の点火間隔                                             YAMAHA

 2004年型ヤマハYZR-M1(0WP3)は不等間隔点火であることがヤマハから明らかにされているが、ここではその点火間隔について考えてみる。

 以下の文の中に、1次慣性力、2次慣性力という用語が出てくる。ピストン等往復運動部分の速度変化により生じる力である。

 1次慣性力=質量×クランク半径×(2×円周率×rpm/60)2×cosθ   (θ=上死点からの回転角)
 2次慣性力=質量×(クランク半径/コンロッド長)×クランク半径×(2×円周率×rpm/60)2×cos2θ

・1次慣性力はcosθに比例するので、上死点と下死点で最大(向きは逆)になり、その中間で0(ゼロ)になる。
・2次慣性力はcos2θに比例するので、上死点・中間・下死点で最大になり、その向きは上死点・下死点で上向き、中間で下向きになる。
・クランク半径/コンロッド長は、おおむね1/4前後なので、最大2次慣性力の大きさは最大1次慣性力の大きさの1/4前後である。

1 通常の並列4気筒

 ライダーから見て左端の気筒を1、順に番号を付け右端を4とする。図はライダーからみたクランクシャフトで、図中の大きい矢印は1次慣性力とカウンターウエイトの遠心力の合力の方向、小さい矢印は2次慣性力の方向、はクランクシャフト回転方向である(YZR-M1は後方回転)。

 1次慣性力を完全に釣合わすためには、図のように1と4のクランクピン、2と3のクランクピンをそれぞれ同じ位置にし、各組の互いの角度を180度にする必要がある。ただし、2次慣性力は全く釣合わない。点火順序は次の2種類で点火間隔は180度等間隔になる。

(1)1-2-4-3
(2)1-3-4-2
((1)のエンジンを逆回転させたもの。「1-2-4-3」を逆の順に2回並べれば「3-4-2-1-3-4-2-1」となり、下線部が(2)になる。)

 排気管の取り回しは、各気筒の4本の排気管を同時に集合させ1本にするか(4→1)、先に2本ずつ集合させ、集合後の2本をさらに集合させ1本にするか(4→2→1)のいずれかが通例である。「4−2-1」の最初の2本ずつの組み合わせは「1・4/2・3」と「1・2/3・4」の2種があるが、最近は「1・2/3・4」が多い。最初に集合した各2気筒の点火間隔は、前者は360度等間隔、後者は180-540度である。

2 2003年型YZR-M1

 2004年日本GP直前にヤマハから2003年型及び2004年型の点火順序が明らかにされたが、2003年型は「1-4-2-3の等間隔」だった。これが正しいなら、クランクピン配置は図のようになり、1次慣性力は力としては釣合うが、偶力が残る。もちろん、2次慣性力は全く釣合わない。990cc4気筒のレーシングエンジンとしては問題外なので、クランクシャフトと同速逆回転のバランサーシャフトで1次慣性偶力を打ち消す必要がある。

 しかし、ヤマハの関係者に確認したところ、「点火順序は1-2-4-3、バランサーシャフトはない」ということであり、ヤマハの公表資料は間違いということになる。
 なお、ヤマハからの公表後の某誌等の記事では、2004年型の点火順序はヤマハの公表どおりに記述し、2003年型の点火順序は「1-3-4-2」としていた。
 2007年3月10日〜6月23日にヤマハ・コミュニケーションプラザで行われた企画展『YZR-M1の挑戦 〜MotoGP第一章 2002-2006の記録〜』での会場での説明及び配布資料では、2003年型の点火順序は1-2-4-3となっており、2003年の公開資料が誤りであったことが示された。

3 2004年型YZR-M1

 ヤマハから2004年日本GP直前に次のことが明らかにされている。

点火順序は「1-3-2-4」
・不等間隔点火

 以下にヤマハが示した条件を満たすレイアウトを列挙し、慣性力の釣合いについて記した。なお、通常の並列4気筒のクランクピン配置に対しての「ずれ」は90度と仮定した。90度であれば2次慣性力を釣合わせることが可能なためである。バランサーシャフトによりある程度を振動を減らせるので、他のレイアウトが考えられないわけではないが・・・

 ヤマハが90度にしていたことが明らかになっているが、その理由はこちら
 

ケース1: 270-90-270-90度または90-270-90-270度(図は前者)

 1次慣性力は全く釣合わず、2次慣性力も力としては釣合うが偶力が残る(図ではエンジンが左に回る方向)。図のようにクランクシャフト後方に同速逆回転のバランサーシャフトを装着し1次慣性力を打ち消そうとしても、完全に釣合わすことはできず※、偶力(図ではエンジンが後傾する方向)が残る。
 なお、クランクシャフトのカウンターウエイトは1次慣性力の1/2であると仮定している(ケース2、3について同じ)。
※バランサーシャフト1本で1次慣性力を完全に釣合わすためには、バランサーシャフトのない状態で力そのものは打ち消しておき偶力が残るようにしておかなくてはならない。そうでない場合、完全釣合いのためにはバランサーシャフトが2本必要である。バランサーシャフトは魔法の杖ではない。
ケース2: 270-180-90-180度または90-180-270-180度(図は前者)
 各クランクピンが90度間隔で配置された形で、1次慣性力はバランサーシャフトにより完全に釣合わすことができ、2次慣性力は元々完全に釣合う。その点で並列6気筒並みのバランスである。
 なお、図ではバランサーシャフトのバランスウエイトは4箇所にあることになるが、2箇所にまとめることができる(ケース3について同じ)。
  この点火間隔は1968、1971年のサイドカー世界選手権でタイトルを獲得したURS(バランサーシャフトはない)に先例がある。
ケース3: 180-270-180-90度または180-90-180-270度(図は前者)
 ケース2のクランクピン配置の変形で、1次慣性力はバランサーシャフトにより完全に釣合わすことができる。2次慣性力は力としては釣合うが偶力(図ではエンジンが左に回る方向、ケース1よりは小さい)が残る。
  URSのクランクピン配置はこの形。
 1の通常の並列4気筒のクランクシャフトは同一平面上にクランクピン、ジャーナルが並ぶので、その形状が1プレーンまたはフラットプレーンと呼ばれる。3-(1)〜(3)はクランクピン、ジャーナルが並ぶ平面が2つなので2プレーンになる。また、3-(2)のクランクピン配置は乗用車用V型8気筒エンジンでも見られるが、クランクピン、ジャーナルが並ぶ2つの平面が交差するので、クロスプレーンとも呼ばれる。3-(3)もクロスプレーンである。

 他にもう1種類考えられるが(ケース(4))、点火間隔が「90-90-90-540」になり、排気管(下Bのとおり4-2-1)からすると現実的ではないので除外し、ケース1〜3について、以下のとおり考えてみた。

A 慣性力の釣合い
 
慣性力の釣合いについては、ケース2が最もよく、若干劣るのが3、大きく劣るのがケース1である

B 排気管の取り回し方の変更

 2004年型は排気管の取り回しが右のように1と4、2と3がそれぞれ集合した後に、集合後の2本が集合し1本になるように変更された。ケース1、2、3について、排気管の取り回し変更による排気管の最初の結合部までの2気筒間点火間隔の変化は下表のとおり。
種別
(4気筒の点火間隔)
2003年型排気管 2004年型排気管
1-2間隔 3-4間隔 4-1間隔 3-2間隔
ケース1 270-90-270-90 360 360 90 90
90-270-90-270 360 360 270 270
ケース2 270-180-90-180 450 270 180 180
90-180-270-180 270 450 180 180
ケース3 180-270-180-90 450 450 90 270
180-90-180-270 270 270 270 90
 上の写真では、各気筒排気管の最初の集合部までの長さは下表のとおり異なっており、しかも長さの順と点火順序が異なるように見える。このことから、4と1、2と3の各組の点火間隔が異なるのではないかとも思われる。とすると、ケース3の可能性が高いことになるが、最初の集合部までの2気筒間の点火間隔が90度で排気干渉しないのだろうか?なぜ、このような間隔にする必要があるのだろうか?
  1-4気筒 2-3気筒
集合部までの長さ 4番気筒排気管が長い 2番気筒排気管がやや長い
各組間の点火順序 4-1 3-2

 このように幾つか疑問があるが、現時点では、
ケース2またはケース3の可能性が高い

 

補足


 2004年型YZR-M1やドゥカティ4気筒の点火間隔についての雑誌記事では「位相する」、「同爆」、「等爆」といった言葉が並んでいるが、「位相」という科学用語どころか、漢字の「同」、「等」の意味すら理解していない人が多い。雑誌用語の「位相」は「ずれ」、「同」は「普通ではない」、「等」は「普通」ぐらいの意味である。

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