2005年型YZR-M1の点火間隔        YAMAHA

 2004年型YZR-M1で書いたように、2004年1月14日に 「乗物用直列4気筒エンジン及びこのエンジンを搭載した乗物」に関する特許出願がヤマハにより行われている。添付図のクランクシャフトの形状は間違いなくYZR-M1のものであり、特許出願の請求項は次のとおり。

請求項1  2つの気筒のクランクピンを180°の位相差をもって共通な第1仮想平面上に配置し、他の2つの気筒のクランクピンを180°の位相差をもって前記第1仮想平面と90度位相がずれた第2仮想平面上に配置したクランク軸を有する乗物用直列4気筒エンジンにおいて、
 少なくとも2つの気筒のクランクウェブをクランクピンを挟んで対向する1対のクランクウェブ半体に分け、両クランクウェブ半体のバランス率をkL、kR(但しkL≠0.25、kR≠0.25)とし、クランク軸の長手方向の中心から各クランクウェブ半体までの距離をDL、DRとして、
 (kL-0.25)/(0.25-kR)≒DR/DL
となるようにして、1次慣性偶力のベクトル軌跡が略円形となるように4つの気筒のクランクウェブを設定したクランク軸と、1次慣性偶力のベクトルを相殺する偶力ベクトルを発生する1次バランサとを備えることを特徴とする直列4気筒エンジン。

 他に2〜11の請求項があり、請求項5では「2004年型YZR-M1の点火間隔」の3のケース2(以下単に「ケース2」というように記述)、請求項6でケース3、請求項7でケース4について記述されている(ケース3、ケース4のクランクピン配置については点火順序の記述なし)。そして、「発明を実施するための最良の形態」で、ケース2のクランクピン配置について次のバランス率を設定している。

  1番気筒 2番気筒 3番気筒 4番気筒
kL kR kL kR kL kR kL kR
クランクウェブ片側バランス率 0.427 0.025 0.357 0.017 0.017 0.357 0.025 0.427
気筒毎バランス率 0.452 0.374 0.374 0.452

 この特許出願の内容は、次の理由から2005年型YZR-M1(0WP4)に実際に用いられたようだ。

(1)真のクランクケース径
 2005年型で目を引くのは真のクランクケース(クランクケースでクランクシャフトが収まる部分)の径が2004年型より大きくなったことである。2005年型でストローク/ボア比が小さくなっており(備考1)、真のクランクケース径は小さくなるはずである。これはクランクシャフトのカウンターウエイトの径が2004年型より大きくなったことによるようだ。上表の1番・4番気筒のバランス率は0.452であるが、クランク片側のバランス率が0.427なので、クランクウェブ径はかなり大きくなる。
 もちろん、上表のバランス率は一例であり、例えば1番・4番気筒の外側のクランクウェブのバランス率を0.35とすれば、内側のクランクウェブのバランス率は0.123になる。

(2)変速機
 出願書の添付図の中に、二輪車に搭載した状態を示すものがあるが、その変速機メインシャフトとカウンターシャフトの位置関係は2005年型のものである。

(3)カムシャフト駆動
 クランクシャフトを示す添付図では、クランクシャフトの中央部に、出力ギアとクランク角センサーホイールがある。実は、本特許出願には別の説明がされているものがあり、そこでは出力ギアと並んでいるのはタイミングチェーン用スプロケットと書かれている。しかし、タイミングチェーン用スプロケットにしては直径が大きすぎることから、クランク角センサーホイールが正解なのだろう。そして、クランクシャフトにはカムシャフトを駆動するギア、スプロケットが図では示されていないことになる。2005年型ではカムシャフト駆動はジャックシャフトから行われているので、この図は2005年型を示しているようだ。もちろん、特許出願に用いられる添付図が全てを示すとは限らないが。


 そして、2004年10月27日に 「並列多気筒4サイクルエンジン及び鞍乗型車両」に関する特許出願がヤマハにより行われている(2006年5月18日公開)。添付図のクランクケース形状、バランサーシャフト配置、カムシャフト駆動ギア列等は間違いなく2005年型YZR-M1のものであるが、5バルブエンジンになっているのがおかしい。請求項はバランサーシャフトの配置、カムシャフト駆動機構等及びその組み合わせが中心であり、発明を実施するための最良の形態では、ケース2についてのみ記述があり点火順序は1-3-2-4となっている。また、上表のバランス率についても示されている。

 これらのことからすると、2005年型YZR-M1の点火順序は1-3-2-4で、点火間隔は270-180-90-180度と考えるのが常識的な考えである。ただ、2005年型の全てがそうだったかといえば、依然として疑問が残っているのである。

 2006年12月、ヤマハからYZR-M1の開発経緯が公開された。
 http://www.yamaha-motor.co.jp/profile/sports/race/2006motogp_review/technical/index.html

 クランクシャフトの図(uneven-firingのもの)は、クランクウェブの形状から2005年型または2006年型(0WR3)のものと分る。クランクピン位置から点火サイクルは次の2種類が考えられる。
(1)点火順序:1-3-2-4 点火間隔:270-180-90-180度
(2)点火間隔:1-2-4-3 点火間隔:90-90-90-450度

 (2)では排気干渉が大きいので、(1)が正解と考えられる。


備考1 ボア・ストローク
 2005年型YZR-M1は2004年型からストローク/ボア比で約15%ショートストローク化された(自動車技術会2006春季学術講演会(2006.5))。前述の2004年10月27日に行われた特許出願の添付図からは、ボア×ストロークは83×45.7o(ストローク/ボア比=0.551)程度に見える。2004年型から4o程度、ボアが広げられたようだ(RACERS Vol14(2012.3三栄書房)でヤマハから公開された値が記載され、ボア×ストロークは82×46.8oとのこと)。

備考2 クランクケース
 2005年型のクランクケースは、シーズン中に確認されたものと、シーズン後にプレス公開されたものとでは、その形状が異なるようだ。特に気になるのが真のクランクケース右端の形状で、実径が小さくなっているように見える(本文(1)参照)。あるいは単に写真の写り具合の差なのだろうか。

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