RS1000 HONDA


 バイカーズステーション(BS)誌2004-11・12、2005-1、2008-6・7、2009-8号にホンダRCB1000、RS1000についての詳細な記事が掲載され、RS1000の実態がある程度明らかになった。記事を企画したBS誌、協力したホンダ、貴重なコレクションを取材に提供した村山氏に感謝したい。その成果というわけではないが、ここでは鈴鹿8時間耐久レースを走ったマシンを中心に、1978年以降のホンダRS1000、RCB1000について書いてみる。 

1 1978年    

 RS1000が登場するのは1979年だが、RS1000とRCB1000は深い関係なので、1978年のRCB1000についても触れる。

  RCB1000は実は「RCB750」であるが、以下、一般的に知られている「RCB1000」と表記する。また、480A〜482A又は480〜482という機種記号が知られているが、ここでは480〜482とする。

  1976年型RCB1000、1977年型RCB1000の機種記号は各々480、481で、これらのマシンのエンジンは市販車・CB750の基本ディメンションを受け継ぎ新造されたものである。そして1978年型RCB1000・482のエンジンは1978年末に発表された市販車・CB750K/CB900F/CB750Fのディメンションと共通化された。エンジンの外観上の違いは次のとおり。また、車体の方では、481は前フォークの前、ヘッドライト下にオイルクーラーが置かれていたが、482では480と同様、フレームのダウンチューブ前に装着された。

  481(1977年型RCB1000) 482(1978年型RCB1000)
点火 変速機上CDIマグネト(ギア駆動) クランクシャフト左端CDIマグネト
発電機(バッテリー・灯火用) クランクシャフト左端 クランクシャフト右端
始動方式 キックスターター 電気スターター
  ノンタイトルのルマン24時間(フランス)では481が走り、続くザンドフールト600km(オランダ)で482が登場、ウッズ/ウィリアムス組が優勝するが、FIM耐久カップ第1戦リェージュ24時間(ベルギー)、第2戦ミサノ1000km(イタリア)、第3戦ニュルブルクリング8時間(ドイツ)、いずれも481が走った。そして第4戦モンジュイック24時間(スペイン:7月8-9日)で、482が久しぶりにレースを走り、クリスチャン・レオン/ジャン・クロード・シュマラン組が優勝した。 

 右の写真(於モンジュイック)で、変速機上にCDIマグネトがないこと、キックスターターがないことが分る。また、481フレームでは、エンジン右後部上側のみブラケットを介して、他の3箇所(右後下、左後上下)は直接フレームに装着していたが、右写真ではエンジン右後部上下2箇所をブラケットを介してフレームに装着している。左後部上下も同様。 なお、ウッズ/ウィリアムズ組は481に乗った。

 次のレースはノンタイトルの鈴鹿8時間耐久レース(7月30日)で、レオン/シュマラン組、スタン・ウッズ/チャーリー・ウィリアムズが出場した。鈴鹿では毎年耐久レースが行われていたが、1973年の8時間耐久レースの後、第1次石油ショックのあおりで行われなくなり、1977年に6時間耐久レースとして復活、1978年には国際格式の8時間耐久レースとなったのである。

 下左端、下左はスターティンググリッドでのレオン/シュマランのマシンで、キックスターター、変速機上のCDIマグネトから481エンジンと分る。ヘッドライト下にオイルクーラーがあるので車体は一見すると481のようだが、ダウンチューブにオイルクーラー取付部が写っていること、エンジン後端上下をブラケットを介してフレームに装着していることから、481エンジンを482フレームに搭載したものと思われる。下中はプラクティス中のレオンで、アッパーフェアリングは482のものだが、クランクケース左端(向かって右端)にCDIマグネトが見えないので481エンジンと分る。

レオン/シュマランの481 ウッズ/ウィリアムスの481

 上右、上右端はウッズ/ウィリアムス組の481で、アッパーフェアリングは482のもの。481のオイルクーラー装着位置を変更し482のフェアリングを装着したのではなく、レオン/シュマランのマシン同様、482フレームに481エンジンを搭載したようだ。以下、エンジン、フレームの機種が異なるときはエジンの機種記号を主に表記する。

 レースでは、スタート時、他のマシンが押しがけ等でエンジンを掛けるのに対し、481の2台はキックスターターでエンジンを掛けようとするが、なかなか掛からず大きく遅れ、特にウッズはほぼ最下位でスタートする羽目になった。そしてウッズは2周目の最終コーナーで転倒しリタイア。他の1台も3時間頃、エンジントラブル(バルブトラブル)でリタイア。 

 「ウッズ・ウィリアムス組が1周目にリタイア」とされることが多いが、2周目の間違い。 
 正式なリザルトでは、ウッズ/ウィリアムス組の周回数は「1」で、1周目のフィニッシュラインを通過したことを示している。 
この8耐は雑多なマシンが出場しており、大きく遅れたウッズが1周目終わりのストレートで、他のマシンを圧倒的な速度差で抜いていくのを見て恐怖を感じたことを思い出す。
 右はシーズン終了後、鈴鹿で公開された482で、クラッチ作動機構はモンジュイック24時間のラック&ピニオンから変更されている。第5戦ボルドール24時間(9月16-17日:フランス)、最終戦ブランズハッチ(9月24日:イギリス)ではすでにこのタイプに変更されていたのだろう。

現存する(であろう)マシン

 
RCB750E-4820001/-(フレーム番号不明) 
 エンジン、フレームとも482。エンジン後左上部マウント部がブラケットを介してフレームに装着されている。


2 1979年  

 1978年まで、主にRCB1000がホンダ大排気量4ストロークレーサーによるレース活動を担っていたが、1979年からCB750K・CB750F/900Fエンジン改造エンジンを搭載したRS1000が登場し、TT-F1(ツーリスト・トロフィー・フォーミュラ1)世界選手権(マン島TTの1戦のみ)、イギリスTT-F1選手権、FIM耐久カップ等に出場することになった。また、マン島のクラシックTT(1000ccオープン)、ボルドール24時間等のオープンクラスのレースでRCB1000が用いられ、FIM耐久カップでもRCB1000が併用されたようだ。
 ホンダRSCから供給されたCB900F用エンジンキットを組み込んだエンジンがRS1000、そのエンジンを搭載したマシンもRS1000といわれているが、ここでは、RSCが特定のチームに供給した専用フレームにRS1000エンジンを搭載したマシンをRS1000として記述する。

 さて、TT-F1のフォーミュラ(規格)は、車体については一般的な安全規定を満足する限り自由で、エンジンについて次のような制限がある。キャブレターの形,、サイズの変更は、CVタイプからCRタイプへの変更、メインボアの変更等が該当する。

  通常の販売ルートを通じ一般ユーザーに販売されモーターサイクルであって、毎年3月1日までにそのマシンが1000台以上販売されていること
排気量 4ストローク:600〜1000cc、2ストローク:350〜500cc
エンジン本体 形式変更禁止、気筒数変更禁止、ストローク変更禁止、シリンダー・シリンダーヘッド・クランクケースの材質・キャスティング変更禁止
吸排気 吸排気装置、キャブレターの数、形、サイズは変更禁止
動力伝達系 6速に制限される変速機は、その数の範囲内でギアボックスシェルに変更を加えない限り、変更可
始動装置 始動装置を備えていること
 1979年に用いられた(可能性のある)エンジンは右のとおり。

 492エンジンについて、ライダースクラブ誌1979-1・2号(合併号)に記事がある(下左・中)。記事中「425」はCB750Kの開発記号。「70mmピストン」から70×64.8mmのTT-F1不適合エンジンであることが分る。キャブレターはそれまでRCB1000に用いられたCVタイプではなくCRタイプ。エンジン価格180万円という記事もあり、市販されたようだが、市販されたとしてもファクトリーチーム/セミファクトリーチームに供給されたエンジンとはレベルが異なったことだろう。
77年型RCB1000(481) 70×64.8mm    
78年型RCB1000(482)    
79年型RCB1000(492) 750エンジン改造  
RS1000 71.5×62mm 750エンジン改造 TT-F1
RS1000 67.8×69mm 900エンジン改造 TT-F1
  RCB RS1000
排気量 997.5 996.5
ボア×ストローク 70×64.8 67.8×69
キャブレター CR31(φ31) VB51A(φ32)
伝達方式 1次 1.166 1.000チェーン
ライダースクラブ誌の記事 RCB1000/RS1000マニュアルの諸元表(BS誌から抜粋)

 上右はRCB1000/RS1000マニュアルの諸元表(BS誌04-11に掲載されたものから作成)で、RCB1000の1次減速(クランクシャフト-ジャックシャフト間)はチェーンで、減速比は1.166となっている。左上写真で分るように492エンジンの1次減速はチェーンで、クランクシャフトのスプロケット径とジャックシャフトのスプロケット径(写真下右端に写っている)から、減速比が1より少し大きいことが分る。また、諸元表のCRキャブレターも左上写真で確認できる。

 480/481エンジンの1次減速はギアだった。482エンジンは750/900エンジンとディメンションが共通であったこと、492エンジンは1次減速チェーンで、このエンジンも特定のチームに供給されたことからすると、482エンジンの1次減速もチェーンだった可能性がある。
一般市販車の900、750のシリンダー冷却フィン数は900:9枚、750:8枚で、一番下側と冷却フィンとシリンダー下端の隙間は、900:小さい、750:大きい、という差がある。そして、RS1000のシリンダーには次の3種類がある。
900-1 900シリンダー
900-2 900シリンダー最下端冷却フィン:クランクケース隙間、最上端冷却フィン:シリンダーヘッド最下段冷却フィン隙間が小さくなっており、シリンダーヘッド又はシリンダー上端、シリンダー下端が切削されたようだ。また、複数種類あるようだ。
750 750シリンダー
CB900F CB750F
 750シリンダーはストローク62mm仕様と思われうが、900-1/900-2シリンダーの差がストロークの差なのかは分らない。

  また、フレームは右の3種類が用いられたようだ。
区分 差異 留意点
482 482(1978年型RCB1000)フレーム  
79-1 RS1000 スイングアームピボット部が扁心軸ではない
79-2 RS1000 スイングアームピボットが扁心軸(481フレームの可能性あり
 左は工場で完成後に撮影されたと思われるRS1000。フレームは79-1で、エンジン右後上下がブラケットを介して、エンジン左後上下は直接フレームに装着されている。 

 右はエンジン部を拡大したもので、750シリンダーのようだ。
 右はシーズン前、オルトンパーク(イギリス)でテストされたRS1000で、エンジンは900-1シリンダー、フレームは79-1。

 マン島TT(6月)のTT-F1世界選手権でRS1000に乗るアレックス・ジョージが優勝、ロン・ハスラムが3位だったが、ジョージのRS1000は997cc、ハスラムのハスラムが996ccになっている。前者が67.8×69mm、後者が71.5×62mmなのだろうか。
 ジョージはクラシックTTでもRCB1000に乗りマイク・ヘイルウッド(スズキXR22(RGA500:1978年型500))を破り優勝したが、フレームのスイングアームピボット部は偏心軸ではなく、79-1のようだ。また、エンジンが481、482、492の何れかは分らない。

 7月の鈴鹿8時間耐久レースでは、トニー・ハットン/マイク・コール(ホンダ・オーストラリア)、ハスラム/ジョージ(ホンダ・ブリテン)、デール・シングルトン/デーブ・アルダナ(ホンダ・アメリカ)の3台のRS1000がスターティンググリッドに着いた。いずれもフレームは79-1で、スペアマシン等の有無は不明。木山賢悟/阿部孝夫(RSC)が乗ったマシンは、エンジンはRS1000(900-1)で、フレームはCB900Fベースのようだ。また、前フォークは2種類あり、ハスラム/ジョージのマシンの前フォーク(取り合えずB型とする)のアウターチューブは、他のマシンの前フォーク(A型)のアウターチューブより長い。

ハットン/コール ハスラム/ジョージ シングルトン/アルダナ 木山/阿部
 左はプラクティスで試みられたハスラム/ジョージのRS1000エンジン(900-2シリンダー)の燃料噴射機構。レースでは通常のキャブレターが用いられた。
 右はレース中のハットン/コールのマシンで、900-2シリンダーのように見える。また、シングルトン/アルダナのマシンも900-2シリンダーようだ。

 なお、このレースに出場できるマシンは、市販レーサー(240〜500ccのMFJ公認車両)とスーパーバイク(240〜1000cc)に分れていた。スーパーバイクの車両規定はTT-F1と似ているが、キャブレターも個数以外は変更可で、エンジンストローク変更禁止規定もない。したがって、キャブレターから燃料噴射への変更も可能であるし、492エンジンも使用可能である。

 11時30分にスタートしたレースは、序盤、スプリントペースで進む。スタートから大きくリードしたグレーム・クロスビー(モリワキ・カワサキZ1)がスタート後20分頃、電気系の不調でピットインし遅れ(富江昭孝にライダー交替後、2時間15分頃に転倒しリタイア)、アルダナが首位に立つ。そして追い上げてきた金谷秀夫(ヤマハTZ750改(500ccに改造))が首位に立った後、45分頃ピットイン、燃料補給し藤本泰東に交替するが、しばらくして転倒・リタイア。一方、ハスラムは変速機故障(5速に入らない)で16分頃ピットイン、チェーンスプロケット交換で対応することになる。この間に首位に立ったのは徳野政樹(カワサキZ1)だが、徳野が燃料補給、徳野博人(政樹の兄)にライダー交替した後に転倒・リタイア。スタートしてから1時間後には、木山/阿部、シングルトン/アルダナ、ハットン/コール、和田正宏/清原明彦(カワサキZ1)の順。
 アルダナから交替したシングルトンは1時間40分頃、転倒しリタイア、首位を独走していた木山/阿部も3時間40分頃にエンジン故障でリタイア、ハットン/コール、ハスラム/ジョージが1-2位となる。そしてレースはそのままこの順位で19時30分のゴールを迎え、前年の優勝周回数194を上回る197周を記録した。

 9月のボルドール24時間(ポール・リカール(フランス))は本来、FIM耐久カップの1戦として行われるはずだったが、排気量1200ccまでのオープンクラスとして行われた。

 このレースのためにホンダは排気量拡大型を投入した。
左はスタート前のレオン/シュマランのマシンで、エンジンは482をボアアップした73×64.8mm、フレームも482で、前フォークはB型。

 上中はハットン/ケニー・ブレーク組のマシンで、エンジンは1062ccといわれている。フレームは79-1、前フォークはA型。右はエンジン部を拡大したもので、750シリンダーのように見える。492エンジン、750改造RS1000エンジンのどちらをボアアップしたのかは分らない。あるいはこれらとストロークが異なるのだろうか。
 レースはレオン/シュマランがヤマハTZ750に乗るパトリック・ポンス/浅見貞夫を退け優勝、ハットン/ブレーク組は残り30分、4位走行時にリタイア。

 残念ながらFIM耐久カップでの写真が少なく、どんなマシンが走ったかよく分らず、申し訳ない。



現存する(であろう)マシン

(1)-/RS1000F0002(エンジン番号不明)

 BS誌09-8に掲載されたマシン。エンジンは900-2シリンダーで、CVタイプキャブレター。フレームは79-1で、前フォークはB型。排気管が短く、サイレンサーの形状も他では見ないタイプだが、ホンダブリテンチームで加工されたものだろうか。

 左スイングアームピボットプレートに「STROKE 69mm」と打刻されたプレートが貼られている。記事解説では「RS1000のベーシック仕様のボア×ストロークが67.8×69mm/996.5ccだから、これをマウント部に刻印してメカニックに教える意味はなかろう。想像できるのは、ワークスエンジンには63mmストロークのスペシャルエンジンがあったから、それはこのフレームには適さないよ、ということではなかろうか。」とある。

 この可能性は否定しないが(63mmかどうかは後述)、もう一つ考えられるのは「騒音規制のため」である。

 当時、4ストロークエンジンではピストン平均速度11m/s、排気管後方45度50cmの位置で測定し115dB(A)という規定があり、ストロークを明らかにする必要があった。こちらは1979年イギリスGPで撮影されたホンダNR500で「STROKE 36mm」と書かれている。ストロークを明らかにするなら、書面、口頭でもいいように思えるが、わざわざフレームに記入しているのはそのような規定があったか、オフィシャルから指示されたからなのだろう。RS1000F0002は主にイギリスで用いられたフレームのようだが、イギリスではレースによって(あるいは全レースで)、ストロークを車体のどこかに記入するような規定、指示があったのではないかと想像する。 

(2)-/-(エンジン/フレーム番号不明)

 売却予定のマシン(リンク先)。エンジンは750シリンダーで、排気管は1979年型標準。79-1フレームで、前フォークはA型。

(3)RCB750E-2301/RS1000F-0102

 エンジンは481で、キャブレターはCRタイプ。フレームは79-2。フレーム番号の「01」は「00」に次ぐ2番目のタイプを示すようだ。ただ、エンジン右後下が直接フレームに装着されていること、右ピボットプレートに変速機左側から右シフトペダルへ繋ぐシャフトを通す孔(赤矢印)があることから、481フレームのフレーム番号のプレートを貼り替えた可能性がある。
 どちらにしても「RS1000F」で始まるフレーム番号が与えられていることから、1979年シーズンに用いられたマシンと思われる。

 なお、現存する481(BS誌04-11)は、このマシンをレストアしたものである可能性もある
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