1984年日本GP  全日本選手権第11戦日本GP(9月9日)はホンダの木下恵司とヤマハの平忠彦の全日本タイトル争いのレースだった。ヤマハが持ち込んだのは平、河崎裕之の0W76が2台、上野真一の0W70が1台。河崎のマシンは0W76-E-405/0W76-B-407だったが、平のマシンのエンジン/フレーム番号は確認できなかった(フレーム番号のあるべき位置(ステアリングヘッド)にテープが貼られていた)。
 9月8日土曜日は朝から雨が降っていたが、昼前後には止んだ。下左端・右・右端はいずれもプラクティス直前の写真。しかし、3時から500ccクラスのプラクティスが始まると雨が降り出し、3周目には完全なウェットになった。このため、多くのライダーが2周目にベストタイムを出した。ポールは木下(NS500、2分29秒31)、以下、河崎、平、長谷川喜久(ホンダRS500R)、山名久(市販RGB500)、伊藤巧(市販RGB500)、片山敬済(NS500)、岡本弘(市販RGB500)、上野、水谷勝(SAEC付エンジンのRGB500)と続く。
河崎の0W76-E-405
/0W76-B-407
平の0W76
  レース(17周)直前、1周の下見走行が認められたが、その際に平の0W76のエンジンがかぶってしまった。ピットでプラグ交換作業を行い(左)、エンジンを掛け確認した後にウォームアップラップに向かった。
 スタートで木下、片山がリードを奪い、平(右)、河崎が続く。片山は少しずつ遅れ6周でピットイン・リタイア、Roche(NS500)も3周でリタイア。平は2位に上がるが木下との差は大きく縮まらない。しかし、木下が12周のS字で転倒・リタイア、平の独走となり優勝、最終戦を待たず500ccタイトルを手にした。2位は河崎。上野は3位を走り一時はヤマハ1-2-3かと思わせたが終盤エンジン不調になり最終ラップに長谷川に抜かれ4位。

TBCビッグロードレース(菅生、10月7日)                                                                             YAMAHA

  ローソン、平、河崎、上野に加えウェイン・レイニーに0W76が与えられた。2ヒートのレース、第1ヒートはローソン、平、河崎、レイニーで浅見貞夫(0W70)が7位、上野8位。第2ヒートはローソン、平、河崎、水谷、レイニー、上野、浅見。ローソンはE1を使用した。

3 シーズン後公開 

(1) E2
 複数の雑誌に公開された右のマシンは、ステアリングブラケット、2番気筒(右下気筒→車体左に伸びる)/3番気筒(左上気筒)の排気管に「E2」と書かれている。また、スイングアーム両側後端に補強が入れられており(終盤のE2の特徴)、このマシンはE2だと思われる。フレームのエンジン左前マウント部に補強が入れられている(右)。また、シリンダー-クランクケース間スペーサーはない。後輪は18インチ。
(2) エンジン単体
 上と同時に2基のエンジンが公開された。リードバルブタイプとロータリーディスクバルブタイプであり、前者(右)のエンジン番号は0W76-E-409。シリンダー-クランクケース間スペーサーがある。
(3)詳細不明
 
シーズン後に公開された上とは別のマシン。フレームのエンジン左前マウント位置に補強が入っているのは上と同じだが、左ダウンチューブ-バックボーン接合部の上(スイングアームピボット部前)に補強が入れられている(右)。シリンダー-クランクケース間スペーサーがある。後輪は18インチ。
(4)詳細不明
 
シーズン後に公開された上とは別のマシンだが、マシンの全体像はわからない。ステアリングブラケットに「E1」と書かれているが、第11戦時の字体とは異なる。シリンダー-クランクケース間スペーサーがある。
(5)フレームのみ
 
左側に後ブレーキ用ブレーキ液タンクを装着できるようになっており、元はフェラーリのマシンのフレームであることがわかる。フレーム上面前側の補強がある。

4 1984年に使用されたマシンの分類

(1)スイングアーム
 前述のように0W76のスイングアームには複数のタイプがあり以下のように区分したが、記号は私が勝手に付けたもので、「適用」は推定を含む。

記号 外観 他のタイプとの関係 適用 前端上
部の穴
左下側の長い補強 後横V字型溶接跡の数
※1
右側前
端上部
の補強
左側上端
接合部位
置ずれ※2
本体縦
中心補
A シーズン前公開マシン 2
B 平が全日本
終盤に使用
平が全日本終盤に使用 2
C-1   序盤のE1 2
C-2 -  C-1に補強追加 E1(第3戦〜(第2戦は未確認)) 2
C-3 - - 後横V字型溶接跡数1のもの おそらく序盤のF2 1
C-4 C-3に補強追加 F2 1
D-1 序盤のE2 2
D-2  - D-1の補強追加 E-2(第4戦〜(第3戦以前は未確認)) 2
D-3 D-2の後端に
補強追加(後端短縮?)
E2(第10戦〜) -
D-4  - D-2後端短縮、後端/上部
/本体縦中央に補強追加
E1(第10戦〜) -
D-5  - D-1(またはD-2)の後横V字型溶接跡数1のもの F-1 1 不明(無/有の両タイプ?)
※1 スイングアーム本体に後端部を装着した跡。
※2 この違いと後タイヤ直前の形状とは関連があるようだ。「ずれ」があるタイプの
後タイヤ直前形状が左、「ずれ」がないタイプの後タイヤ直前形状が右である。

(2)ローソンが使用したマシン(推定を含む)

  SA I E Atr A F Y N B GB S SM
E1 R P P P R P P P P P R R
C-1 C-1 C-2 C-2 C-2 C-2 C-2 C-2 C-2 D-4 D-4 D-4
E2 P R R R P R R R R R P P
D-1 C-1 C-1 D-2 D-2 D-2 D-2 D-2 D-2 D-3 D-3 D-3
R」はレースで使用、「P」はプラクティスのみで使用、下段はスイングアームの記号。
シーズン途中でフレームを交換した可能性は充分ある。

5 諸元

エンジン形式 2ストローク水冷40度V型4気筒
動力伝達経路 各クランク→クラッチギア→変速機メインシャフト→変速機カウンターシャフト
クランク 2気筒別体、ローラーベアリング×3・ボールベアリング×1(右端)※
クランク回転方向 前方
ボア×ストローク o 56×50.7
吸気制御 クランクケースリードバルブ/Vバンク間ギア駆動ロータリーディスクバルブ
シリンダーポート 排気×3?(パワーバルブ付)、掃気×5
キャブレター ミクニ34/35o・2気筒分一体型ピストンバルブまたはフラットバルブ
点火間隔 180度(対角線上2気筒がそれぞれ同時点火)
点火方式 CDI
変速機 6速
最高出力 PS/rpm 147/10750
フレーム アルミツインチューブ
前サスペンション テレスコピック
後サスペンション ボトムリンク(ショックユニット直立)、オーリンズ製ショックユニット
前ブレーキ 320φローター×2、対向2ピストンキャリパー/ブレンボ製4ピストンキャリパー
後ブレーキ 220φローター、対向2ピストンキャリパー
前ホイール 3×17
後ホイール 4×18、4.5×18、4.5×17
車重 kg 125kg(半乾燥)
※MOTO COURSE1983-84ではローラーベアリング×4となっている。0W61は公開された展開図では表のとおり。

6 現存するマシン

0W76-E-401/0W76-B-404
 後ブレーキペダルは車体右側にあるが、フレーム左側に後ブレーキ用ブレーキ液リザーボアを装着できるようになっており、元はフェラーリのマシンであることが分り、フレーム番号からF2だと思われる。3-(5)のフレームから組上げられたものではないようだ。シリンダー-クランクケース間スペーサーがある。後輪は18インチ。
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