最高出力の相対比較

 レースはレーシングエンジンの最高出力品評会ではないが、最高出力はレーシングエンジンの重要な評価事項である。排気量と回転数 (ganriki.net) で書いたように「回転数限界は近似的に気筒当たり排気量の1/3乗に反比例する」し、出力も同様に「近似的に気筒当たり排気量の1/3乗に反比例」する。だからこそレーシングエンジンでは出力向上の手段の一つとして多気筒化が議論される。

 もちろん、多気筒化そのものに技術的な課題はあるが、多気筒化以外の高出力化の技術水準を評価するためには、リッター当たり出力ではなく上の関係式により一定の排気量・一定の気筒数のエンジンに換算して比較することが有効である。

  ここでは、1960年代のホンダF-1、F-2エンジンと、4輪レーシングエンジン、ホンダが2輪世界GP参戦前にマシン開発の参考としたモンディアル125t単気筒ロードレーサー、ホンダCB125S(単気筒)改造レーサー(1973年市販のホンダRSCチューニングパーツ組込)を、ホンダRA273E(3リッターV12気筒に換算し比較してみた。

 諸元の出典は次の通り。
「ホンダエンジン開発史(四ストロークサイクルエンジンの基礎確立まで)」(八木静夫)
「勝利のエンジン50選」(カール・ルドヴィクセン、ニ玄社2004)。
「ホンダCB125S ロードレーサー パーツリスト」(ホンダRSC1973)

 なお、公表値が正しいとは限らないし、正しいとしても測定条件が各エンジンで同じとは限らないので、以下は参考として考えられたい。

ホンダF-1等

その他のエンジン

〇機種名の270〜302については数字の前に「RA」が付く。303はRA300Eとしても、546はRA302Eとしても知られているF2エンジン。
〇同一機種名が2段あるのは開発過程で出力向上したもの。
〇排気量は公表値ではなく公表ボア・ストロークから算出したもの。
〇「iv」は吸気バルブ数だが、表のエンジンの排気バルブ数は吸気バルブ数と同じ。
〇honda270-272はエンジンと変速機等が一体構造のため計測出力は変速機出力側と思われる。このため変速機伝達効率0.95としてクランクシャフト相当出力を「PS at crank」として算出した。
〇イギリスのエンジンはヤード・ポンド馬力で表記されていると思われるので、これに係数を乗じたものを「PS at crank」として示した。
〇cb125の出力は変速機出力軸のものなので、変速機伝達効率0.95として「PS at crank」を算出した。
〇mondialの出力はホンダが測定した後車軸相当出力と思われるので、変速機伝達効率0.95、後輪駆動チェーン伝達効率0.95として「PS at crank」を算出した。
〇mercedes benz m196は「ベンゾール45%、メタノール25%、110/130オクタンガソリン25%、アセトン3%、ニトロベンゼン2%、0.03v/v%4エチル鉛」燃料なので、その出力上積みがある。
〇honda273-302、mercedes benz 196はクランクシャフト中央から動力取出シャフトで動力が取り出され、これがクラッチに繋がる。上で示したのは動力取出シャフト出力。
〇bmep(正味平均有効圧)は最高出力時のもの。
〇このモンディアルは1956年型市販レーサーとされることが多い。ただ、モンディアルは1957年を最後にレース活動を停止したので、このマシンはその最終形と思われるので「1957」とした。また、モンディアルはレース活動停止後にファクトリーレーサーを何台か放出した。例えばマイク・ヘイルウッドは1958年250tクラスでNSUに乗っていたが、モンディアル250tレーサーを入手し、1959年にこのマシンでランキング4位となった。「ホンダが購入したのだから市販レーサーのはず」ではないと信じたい。

  下図は換算出力を年ごとに整理したもの。

 1955〜65年ごろは375PS前後のレベルで大きな進歩はなく、RA271、RA272もその範囲だが、1966年以降に増加し、特にホンダ546、コスワースDFVのレベルが突出している。
 ホンダCB125Sは125t空冷単気筒2バルブの市販車エンジンの改造したものとしては相当な高レベルである。
 モンディアル125は次のことを考慮すれば、当時のレーシングエンジンとしてかなり高度だったものと考える。
  ●このマシンがファクトリーマシンでレース撤退後に放出されたものなら、完全整備状態ではなく1957年レース参戦時の出力より低かった可能性がある。
  ●このマシンが市販レーサーならファクトリーマシンの出力は上の数値を上回ったであろう。

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