XR40(1982年型RGΓ500)                                                 SUZUKI

 1981年、スズキはXR35(1981年型RGΓ500)で500cc世界選手権をヤマハから奪回したが、1982年にはスズキのライバルはより強化された。ホンダは4ストロークのNR500で勝つことを諦め2ストロークV型3気筒のNS500を、ヤマハは1981年型スクエア4気筒の0W54を全面的に設計変更した0W60、そしてV型4気筒の0W61(第2戦から)登場させたからである。しかし、スズキXR40とフランコ・ウンチーニは安定した速さを見せ、1982年500cc世界選手権を獲得した。

1 XR40の成り立ち、チーム体制
は"RGΓ500"の名称が与えられ、エンジンが1980年型のXR34(クランクケースはXR27)より大幅に小さくなった。1982年型XR40はその基本路線を受け継いだマシンであり、よりコンパクトになった。またボア×ストロークも1976年から1981年まで用いられた54×54oから56×50.6oに変更された。1981年オランダGPでXR35用アルミフレームが登場(実戦ではベルギーGPから使用)しており、XR40もアルミフレームがシーズンを通して用いられたが、少なくとも2種類のフレームが存在した。 

 下は1982年シーズン中に撮影さ
 1981年型スズキ500ccスクエア4気筒XR35にれたXR40だが、1982年に差異が確認された箇所を矢印で示している。Hのロッカーアームピボットの違いとIのスイングアームの違いは一対のようだ。仮に写真のHIB型、他をA型とし、AGの差異に枝番を付けたのが下の表で、A-4型に2種あるので計9種である。左はB-2型。

 

 

 

 

 

型式 A-1 A-2 A-3 A-4 B-1 B-2 B-3 B-4
代表例 シーズン前公開写真 デイトナ200マイル・マモラ車 鈴鹿2&4・河崎車、デイトナ200マイル・マモラ車(スペア?) シーズン中大半 シーズン中盤以降 スエーデン・チームガリーナ ドイツ・マモラ車 日本GP・
河崎車
A フレームパイプ外側補強 なし なし なし あり あり あり あり あり
B 補強 あり なし あり なし なし なし あり なし
C 切り欠き 不明 不明 なし なし なし あり 不明 なし
D 補強形状 一部曲線 一部曲線 三角形/一部曲線 一部曲線 一部曲線 一部曲線 一部曲線 三角形
E バックボーン下部補強 なし なし あり あり あり あり 不明 あり
F ダウンチューブ削り取り 不明 不明 不明 あり なし なし 不明 不明
G バックボーン後端 孔?あり - - - - - - -
H ロッカアームピボット部とシートレールの間 直線 直線 直線 直線 Y字型 Y字型 Y字型 Y字型
I スイングアーム 1型(補強プレートあり) 1型 1型 1型 2型 2型 2型 2型
各タイプの関係 A-2の改修 A型の基本 A-1の別仕様 A-2を補強・エンジン搭載位置を下げた/エンジン搭載位置前後2種有り B型の基本 B-1のエンジン搭載位置を上げた B-1に補強追加 B-1の別仕様

 1982年、XR40を使用するスズキのチーム体制は次のとおりだった。おそらく、フレーム番号は「RGΓ500-1101」から始まっていると思われ(マシンによって「Γ」の文字が打刻されていないものがある)、ライダーごとの配分は表のとおりだったと想像する。もちろん、シーズン中に改良型フレームが投入されてもフレーム番号は変えていない可能性があるし、チーム内でマシンをやり繰りしたこともあったと思われる。
 なお、ジャック・ミドルブルフにシーズン当初はXR35、オランダGPからXR40が与えられた。また、第6戦〜第8戦に河崎裕之、第9戦は故石川岩夫が出場した。

チーム名 ライダー フレーム番号 タイヤ
HBチームスズキ Randy Mamola 1101、1102 ダンロップ
Virginio Ferrari 1103、1104
チームガリーナ Franco Uncini 1106、1107 ミシュラン
Loris Reggiani 1108、1109

2 戦績

第1戦アルゼンチンGP前

   下左端はシーズン前公開写真のA-1型である。

 デイトナ200マイル(3月7日)にマモラが出場、A-2型(下左)、A-3型(下右)が持ち込まれた。前輪はA-2型が16インチ、A-3型は18インチで、おそらくA-2型が16インチ、A-3型は18インチで開発が進められたものと思われる。マモラがレースで用いたのはA-2型のようだ。レースでは他車の転倒に巻き込まれ、転倒・リタイア。

 鈴鹿BIG2&4
(3月14日)には河崎裕之、石川岩夫が出場した。河崎(下右端のA-3型)は1周目トップだったが、間もなくエンジントラブルでピットインリタイア、石川は3位だった。

第1戦アルゼンチンGP(ブエノスアイレス)

 ポールはケニー・ロバーツ(ヤマハ0W60、1分34.05秒)、ウンチーニ7位。
 下左はおそらくウンチーニのXR40でA-4型(エンジン搭載位置前)、下右はフェラーリのXR40でこれもA-4型(エンジン搭載位置は後)。
 
 レースはロバーツが優勝、マモラは変速機故障でリタイア。ウンチーニ孤独4位、ミドルブルフ9位、レッジアーニ10位、フェラーリはリタイア。

第2戦オーストリアGP(ザルツブルクリング)

 プラクティスは大半がウェットで時折みぞれが混じる最悪のコンディション。ポールはクロスビー(1分25秒49、0W60)、レッジアーニ8位、ウンチーニ10位、ミドルブルフ13位。
 レース日、午前中の雨が止み、スタート時間を1時間30分遅らせ周回数も6周減らし29周となった。1周終りの順位はシーン、ロバーツ(0W61)、クロスビー、スペンサー(ホンダNS500)、ルキネリ(NS500)。9周目にはスタートに失敗し追い上げたウンチーニ(左、レース中)、レッジアーニも追いつき、しばらくするとウンチーニ、ルキネリが激しく首位を争い、最終ラップにルキネリが転倒、ウンチーニが優勝。レッジアーニも同じ場所で転倒しリタイア、マモラは7位。
  ウンチーニのマシンは1107で、A-4型と思われる。
 

 1982年のウンチーニのマシンを観察すると、左の写真のようにシートカウル後端、燃料タンクに「1107」と書かれていることがある。また、「1106」と読めるような写真もある。しかし、該当場所にその文字を観察できない写真も多く、燃料タンク、シートカウルはよく交換されていたようだ(あるいは新型車が投入?)。また、ウンチーニのマシンのフェアリングは、前ゼッケン両側に吸気ダクト(ラジエーター冷却用?)があるものとないものがあり、プラクティス中に交換したりもしていたので、各レース毎の変化が観察しにくい。以下にウンチーニに与えられたであろう「1106」、「1107」の区別を記述するが、あまり自信はない。

第3戦フランスGP(ノガロ)

 路面不良のため、トップライダー達がボイコットし、サンベネロに乗るミシェル・フルチが優勝。

第4戦スペインGP(ハラマ)

 フランスGPをボイコットしたため、マモラは早めにハラマに到着、140ラップものテストを行うが2回転倒した。原因の1つはマグネシウム製キャブレターが全開で固着したことといわれている。フェラーリ、レッジアーニも転倒しレースを欠場することになった。プラクティスではスペンサーが1分31秒07でポール、以下ロバーツ、ミドルブルフ、ウンチーニ、シーン、クロスビー、マモラ。
 レースではスペンサーが好スタートするが7周目に点火系の故障でピットイン・リタイア。ロバーツが1位、シーンが2位に上がりそのまま終了、ウンチーニが3位。マモラはウォームアップラップで再びスロットルが固着したようで、メカが何とか直すが、2周でリタイア。
 下はウンチーニのA-4型(エンジン搭載位置前)の1107で右奥に1106が写っている。

第5戦イタリアGP(ミザノ)

 プラクティスではウンチーニが1分22秒10でポール、マモラは15位。
 レースではウンチーニが5周目に首位に立ちそのままゴール、マモラ(下)は終盤に(公式にはブレーキ故障で)リタイア。ウンチーニのマシンはA-4型の1107、マモラのマシンはA-3型マシンでサイレンサーに突き出しがある。

第6戦オランダGP(バンドレンテ)

 このレースからミドルブルフにXR40が与えられ、河崎裕之もXR40で参戦。ミドルブルフのマシンはA-4型、河崎のマシンはA-3型のようだ。プラクティスではロバーツが2分49秒87でポール、ウンチーニ3位、ミドルブルフ5位、マモラは9位。
 レースはロバーツが飛び出しウンチーニ、シーン、ミドルブルフ、マモラが続きトップ争いを繰り広げるが、雨が降り出し6周で中断、2ヒート制となった。
 第2ヒートはミドルブルフが2周目に転倒リタイア、シーンが首位に立つが激しく振られペースダウン、ウンチーニが首位に立ちそのまま優勝(第1ヒートとの合計でも)、マモラ5位。河崎は23位。
 下
はプラクティス中のウンチーニの1107(レース使用車)で、スイングアーム等からB-1型と思われる。このレースからB型が投入されたようだ。以下、このマシンを新1107とする。
 
第7戦ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)
 プラクティスではミドルブルフが2分39秒100でポール、マモラ10位、ウンチーニ11位、河崎(おそらくA-3型)は20位。
 レースでは1周目の終わりにミドルブルフが首位に立ち、2周目にはクロスビーが、3周目にはロバーツが首位になり徐々にリードを広げる。スタートを失敗したウンチーニ(真1107)も3位に浮上。そしてスペンサーが1位になり、そのままスペンサーが初優勝。ウンチーニ3位、河崎(下)は点火系の故障でリタイア。


第8戦ユーゴスラビアGP(リエカ)

 
 このレースからフェラーリがミシュランタイヤを使用した。プラクティスではシーンが1分33秒08でポール、以下スペンサー、ウンチーニ3位、クロスビー、ミドルブルフ5位、マモラ8位、河崎14位。河崎のマシンはA-3型で、日本で用いられていたマシンがそのまま持ち込まれたようだ
 レースで、ウンチーニ(新1107、1106のどちらかは不明)はやや遅れていたが、4周目には2首位に立ち、そのまま優勝。ミドルブルフ6位、マモラ7位、レッジアーニ9位、河崎12位。

第9戦イギリスGP(シルバーストーン)
 
 石川が河崎に代わりXR40でスポット参戦した。プラクティスではロバーツが1分29秒84でポール、以下ウンチーニ2位、マモラ7位、フェラーリ9位、レッジアーニ11位、石川24位。ミドルブルフは水曜日のフリープラクティスで250ccのライダーの転倒に巻き込まれたシーンに突っ込み転倒、プラクティス・レースを欠場。また、マモラもミシュランタイヤをテストするがレースではダンロップを使用。

 レース前に雨が降りスタートが遅れた。1周を終わり片山(NS500)が首位だったが、2周目にはウンチーニが首位に立つ。4周後にはスペンサーが2位に上がるが、ウンチーニはそのままリードを広げ優勝。レッジアーニ4位、マモラ5位、フェラーリ6位で、石川(右、レース中)は16位。
  下左はウンチーニの1106(レース中)で前ゼッケン両側の吸気ダクトをテープで塞いでいる。下右は石川のA-3型(レース中)。


第10戦スエーデンGP(アンダーストープ)

 
 ランキング2位のロバーツ、シーンはイギリスGPでの負傷のため欠場、エントリーを取り消した時点でウンチーニの500cc選手権獲得が決定した。
 プラクティスはスペンサーが1分37秒72でポール、以下ウンチーニ2位、マモラ6位、レッジアーニ9位、フェラーリ20位。  
 レースはマモラが好スタートするが、片山がすぐに抜く。レッジアーニとフェラーリは1周目で転倒、スタートでやや遅れたウンチーニ(22)は6周目には3位に浮上、3周後には首位に立ちリードを広げるが、21周目に後チェーンスプロケット破損でリタイア。片山が優勝。マモラ2位。
 ウンチーニは1106を使用、下はおそらくウンチーニの新1107(B-2型)。


第11戦サンマリノGP(ムジェロ)

 
 プラクティスではスペンサーが2分2秒81でポール、以下ウンチーニ2位、マモラ6位、フェラーリ7位、ミドルブルフ9位、レッジアーニ11位だったが、ウンチーニは転倒・負傷してしまった。
 レースではスペンサーが好スタート。ウンチーニは1周目は終わりから5番目で5周目には9位に浮上したが、10周でピットイン・リタイア。優勝はスペンサーでマモラ2位、フェラーリ4位(A型)、ミドルブルフ5位。マモラのマシンはスエーデンGP時と同じようだ。

第12戦ドイツGP(ホッケンハイム)

 
 プラクティスはスペンサーが2分9秒91でポール、以下ウンチーニ2位、ミドルブルフ4位、マモラ5位。レッジアーニ8位、フェラーリ9位。
 レースはルキネリがリードを奪うが、7周目にスペンサーが首位に立ち、ルキネリはマモラ、ウンチーニに抜かれる。残り2周でスペンサーは点火系故障でペースダウンするが、後ろにスズキの2人が迫っていることに気が付かなかった。そしてヘアピンの進入でスペンサーとウンチーニが接触し2人共転倒、マモラがそのまま優勝、2位フェラーリ、3位レッジアーニ。この結果、スズキのメーカー選手権獲得が決定した。

 下左はマモラのB-3型で、B-1型に補強が入ったもののようだ。もう1台、マモラ用のB型車(おそらくB-1型)が確認でき、これがレースで使用されたようだ。下右はミドルブルフのA-3型。ミドルブルフがイギリスGPプラクティスで転倒しレースを欠場したことと考え合わせると、石川がイギリスGPで乗ったマシンがサンマリノ以降、ミドルブルフに与えられたようだ。

 1982年の戦績を振り返ると、XR40とウンチーニは安定した速さを見せたが、HBチームスズキの2人はシーズンを通してハンドリングに苦しんだ。そして結果的にXR40がスズキ500ccスクエア4気筒の最後の栄光のマシンとなるのである。

ランキング

    Arg Atr F E I N B Y GB S SM A Total
1 ウンチーニ 8 15   10 15 15 10 15 15       103
2 クロスビー   8   8 10 8   12 10 10 10   76
3 スペンサー 10       12   15 8 12   15   72
4 ロバーツ 15 10   15 8 12 8           68
5 シーン 12 12   12   10 12 10         68
6 マモラ   4       6 6 4 6 12 12 15 65
7 片山 5 2   5 4 3   6   15   8 48
11 フェラーリ                 5   8 12 25
13 レッジアーニ 1             2 8     10 21
16 ミドルブルフ 2             5     6   13


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