RT63-RT67V                                         suzuki

 1962年末から1967年にかけてスズキが走らせた125cc2気筒レーサーについては、スズキの技術者だった中野広之さんが、「日本モーターサイクルレースの夜明け」に詳細に記述されている。本頁は「日本モーターサイクルレースの夜明け」を参考としてまとめたものである。

1 1962年

 1962年、スズキは125ccクラスで単気筒RT62及びその後方排気型・RT62Dを走らせていたが、エンジントラブルが多く、目立った戦績を挙げることができなかった。しかし、50ccクラスでは第3戦マン島TT以降4連勝するなどし、タイトルを手にしていた。そして、1963年6月末に1963年125ccクラスは2気筒を走らせることが決まり、RT63Xと名づけ設計開始、7月末〜8月初めに出図し、エンジン製作開始、10月に1号機エンジンが完成し10月23日にベンチテストを開始した。車体はRT62のものをベースにして製作されており、走行テストを短時間行った後、鈴鹿での全日本選手権に持ち込まれた。ベンチテスト開始から公式予選開始まで8日しかなく、テストを兼ねて出場となった。

 全日本選手権(11月3〜4日)は日本における最初の本格的なロードレースで、ノービスとセニア(国際)に分けて行われ、セニアにはホンダ、スズキの外国人ライダーも大挙してエントリーした。公式予選でRT63Xにはエルンスト・デグナー、ヒュー・アンダーソン、フランク・ぺリスが乗ったが、3日の125ccレースではぺリスはRT62Dを選択、RT63Xはアンダーソンのみが使用した。デグナーは125ccクラスは欠場。

 レースは豪雨の中行われ、ホンダ2気筒に乗るトミー・ロブが優勝、2位ぺリス、3位谷口尚己(ホンダ)で、アンダーソンは終盤、7位あたりを走っていたが、マグネトに水が入りリタイア(記録上は10位)した。

 RT63Xは1963年GPシーズン前、デイトナ(US)でのレースでも使用されたが、1963年シーズン用のRT63の開発が進んでおり、RT63が登場するまでのつなぎとしての役割である。

鈴鹿(アンダーソン) 鈴鹿(ぺリス) 63 デイトナ(デグナー)

2 1963年

 全日本選手権の後、1963年型RT63の設計が始まった。RT63Xの前方排気を後方排気に改め、ストロークを0.4o短縮しボア×ストローク:43×42.6oの123.73ccにし、クランクピンのクランクホイール圧入長が増やされている。ストロークを短くしたのはライダーから0.2oまでボア拡大を可能にするよう要望があったためである。実際にはオーバーサイズピストンが用意されることはなく、ストロークを0.4o短縮した意味はなかったが、このボア×ストロークが1967年型125cc2気筒及び1963〜65年の250cc4気筒でも踏襲されることになる。

 RT63エンジンは1963年1月8日に出図され、1号機エンジンは3月1日に完成。6月下旬には水冷エンジンRT63Aの試作を開始、最終戦日本GPではデグナーが乗った。また、シーズン中、クランク大端部ベアリングの破損に苦しみ、ベアリングの改良を重ね、最終戦ではベリリウム・銅合金製リテイナーのベアリングが導入された

 グランプリでは第2戦ドイツGPでデグナーが優勝したのを皮切りにスズキが8連勝、6勝したアンダーソンが世界選手権を獲得、スズキもメーカー選手権を獲得した。第10戦イタリアGP、第11戦アルゼンチンGPは50ccクラスに専念するため欠場するものの、最終戦日本GPでぺリスが優勝、スズキは計9勝し、ホンダ2気筒を圧倒した。しかし、最終戦日本GPではホンダ4気筒RC146が登場、2位入賞し1964年にはスズキの脅威となることが明らかになった。なお、他のライダーではベルト・シュナイダーが第6戦ベルギーGPで優勝している。

ドイツGP(デグナー)※ マン島TT(アンダーソン) マン島TT(デグナー)※ 東ドイツGP(シュナイダー) フィンランドGP(左:
ぺリス、右:アンダーソン)
日本GP(伊藤光夫)※
※は「日本モーターサイクルレースの夜明け」から引用。

 1963年GPシーズンに使用されたマシンのエンジン番号、フレーム番号と使用したライダーは次表のとおり。上のマン島でのデグナーのマシンは他のマシンとは異なり、前フォークがアウタースプリングタイプである。

    E A F TT N B U AE Fin I Arg J 備考



T3-1                   - - 伊藤  
T3-3 Anderson Anderson Anderson Anderson     Anderson     - -   アンダーソン用
T3-5 Schneider       Degner   Degner     - -    
T3-6   Schneider Schneider       Perris     - -    
T3-7 Perris Perris Perris Perris Perris Perris   Perris Perris  - -   ぺリス用
T3-8       Schneider Schneider Schneider Schneider Schneider Schneider  - - 森下 シュナイダー用
T3-9         Anderson Anderson   Anderson Anderson  - -   アンダーソン用
T3-10 Degner   Degner             - -   デグナー用
T3-11   Degner   Degner   Degner       - -   デグナー用
T3-16                   - - Anderson  
T3-17                   - - Perris  
T3-18                   - - Degner RT63A
T3-19                   - - 越野  



T3-1                   - - 伊藤  
T3-3 Anderson Anderson Anderson Anderson     Anderson     - -   アンダーソン用
T3-5 Schneider                 - -    
T3-6   Schneider Schneider       Perris     - -    
T3-7 Perris Perris Perris Perris Perris Perris   Perris Perris  - - Perris ぺリス用
T3-8       Schneider Schneider Schneider Schneider Schneider Schneider  - -   シュナイダー用
T3-9         Anderson Anderson   Anderson Anderson  - -   アンダーソン用
T3-10 Degner   Degner   Degner   Degner     - -   デグナー用
T3-11   Degner   Degner   Degner       - -   デグナー用
T3-13                   - - 越野  
T3-14                   - - 森下  
T3-15                   - - Degner RT63A
T3-16                   - - Anderson  
イタリア、アルゼンチンは欠場。

3 1964年

 1964年型として開発が進められたRT64は、RT63をベースに出力向上を図られたマシンである。水冷のRT63Aエンジンの開発も並行して進められたが、RT64の開発が優先された。

 第1戦USGPではRT63が出場(ホンダは欠場)し優勝したが、第2戦スペインでRT64が登場すると、日本のテストでは起きなかったプラグかぶり、ピストン焼き付き等のトラブルが多発した。ホンダは第2戦から出場し、前年日本GPで登場させた2バルブ4気筒のRC146の改良型2RC146(4バルブ)で連勝を重ねた。

 スズキは第5戦オランダGP以降、対策として旧型キャブレター(RT63のキャブレターと同タイプで吸気経路長が長いが、ボアはRT63の24mmに対して26mm)を使用、第7戦東ドイツ、第8戦アルスターとアンダーソンが連勝したが、第9戦フィンランドでタベリ(ホンダ)が優勝した時点でメーカータイトルはホンダ、個人タイトルもタベリに奪い返された。

 そして最終戦(第11戦)日本GPではRT63エンジンをベースに水冷化したエンジンを搭載したRT63改A(Aは水冷の意)、RT63エンジンを改良したエンジンを搭載したRT63改が登場、RT63改Aに乗るデグナーが優勝し、翌年に希望を繋げた。また、日本GPの直後にスクエア4気筒RS65計画がスタート、1965年シーズン中の出場を目指すことになった。

USGP(RT63) スペインGP アルスターGP(アンダーソン) 日本GP(デグナー/RT63改A) 日本GP(片山/RT63改) 日本GP(デグナー・アンダーソンのRT63改A)

 1964年GPシーズンに使用されたマシンのエンジン番号、フレーム番号と使用したライダーは次表のとおり。

    US E F TT N A AE U FIN I J 備考



T4-1   Schneider                   本来アンダーソン用?
T4-2     Schneider Schneider Schneider Perris       Degner   シュナイダー用
T4-3   Anderson Anderson Anderson Anderson Anderson Anderson   Anderson Anderson   アンダーソン用
T4-5           Schneider Schneider Schneider       シュナイダー用
T4-7   Perris Perris       Perris Anderson       ぺリス用
T4-8       Perris Perris             ぺリス用
T4-10               Perris Perris Perris    
T4-11                 Schneider      
T3-2                     Anderson RT63改A
T3-11                     Degner RT63改A
T3-19                     森下 RT63改
T3-20                     片山 RT63改
T3-32                     Perris RT63改A



T4-1   Schneider       Schneider Schneider Schneider Schneider     シュナイダー用
T4-2     Schneider Schneider Schneider             シュナイダー用
T4-3   Anderson Anderson                 アンダーソン用
T4-5       Anderson Anderson Anderson           アンダーソン用
T4-6       Perris Perris Perris           ぺリス用
T4-7   Perris Perris       Perris Perris Perris Perris 片山 ぺリス用
T4-8                   Degner    
T4-9             Anderson Anderson Anderson Anderson   アンダーソン用
T4-17                     森下  
T4A-1                     Perris RT63改A
T4A-2                     Degner RT63改A
T4A-3                     Anderson RT63改A
 USGPはRT63で出場。
  RT63改Aのフレーム打刻はT4Aで「RT64フレームの水冷型」の意。

4 1965年

 1965年、スズキはRT63改Aで戦うこととなった。そして第1戦USGP(ホンダは第1戦欠場し第2戦から出場))から第4戦フランスGPまで4連勝するが、第5戦マン島TTで第1戦から欠場していたヤマハが水冷2気筒RA97が登場させ優勝、第6戦オランダGPでもヤマハが優勝し、スズキの脅威となりつつあった。しかし、ヤマハ、不調のホンダは第7戦以降欠場し、スズキは第7戦東ドイツGP以降連勝、ライダータイトルはアンダーソン、メーカータイトルもスズキが獲得した。優勝したのはぺリス(東ドイツ、チェコ)、デグナー(アルスター)、アンダーソン(他GP)。

 最終戦日本GPでは、ヤマハ、ホンダも出場、ホンダは5気筒RC148を登場させたが、スズキはRT改Aに加えて、エンジンオイルポンプを装着し9段変速化したRT65をアンダーソン、越野晴雄に与え、アンダーソンが優勝した。下右端の越野のRT65のエンジン後端にオイルポンプが見える。

 一方、4気筒・RS65の開発は順調に進まず、1965年シーズン中の出場はならなかった。そして、日本GP直後から3気筒RJ66の開発が始まり、2気筒RT66に加え、4気筒と3気筒の並行開発が行われることになった。

マン島TT(アンダーソン) マン島TT(左:ぺリス、右:デグナーのマシン) チェコスロバキアGP(ぺリス) フィンランドGP(ぺリス、アンダーソン) 日本GP(左:片山、右:アンダーソン) 日本GP(越野のRT65)

 1965年GPシーズンに使用されたマシンのエンジン番号、フレーム番号と使用したライダーは次表のとおり。RT63改Aのエンジン番号はT3-1〜、T3-50〜、T3-100〜の3種類があり、クランクケースも3種類あると思われるが詳細は不明。スズキ50cc2気筒、250cc4気筒もシーズン中盤でオイルポンプ装着型エンジンが登場したので、T3-50〜エンジンもオイルポンプ装着型かもしれない。RT65のエンジン番号が50番台から始まっているが、日本GPに登場したマシンの前に別のタイプが存在したのだろうか。

  US A E F TT N AE CZ U FIN I J  



T3-2 Anderson Anderson Anderson Anderson               アンダーソン用
T3-20 越野 Degner     Degner Degner           デグナー用
T3-30 Degner                      
T3-32 Perris Perris       Perris           ぺリス用
T3-51     Degner Degner               デグナー用
T3-52         片山     Anderson Anderson Anderson   片山/アンダーソン用
T3-53     Perris Perris Perris             ぺリス用
T3-54           片山 Perris Perris Perris Perris   片山/ぺリス用
T3-55         Anderson Anderson           アンダーソン用
T3-56                 Degner      
T3-102                     Perris  
T3-103                     片山  
T5-51                     越野 RT65
T3-55                     Anderson RT65



T4A-1 Perris Perris                   ぺリス用
T4A-2 Degner Degner             Degner     デグナー用
T4A-3 Anderson Anderson Anderson Anderson Anderson     Anderson Anderson Anderson   アンダーソン用
T4A-5 越野   Perris Perris Perris Perris           ぺリス用
T4A-6     Degner Degner Degner Degner           デグナー用
T4A-9           Anderson            
T4A-10         片山 片山 Perris Perris Perris Perris Perris 片山/ぺリス用
T4A-11                     片山  
T5-2                     Anderson RT65
T5-3                     越野 RT65
 ※イタリアGPでのエンジン・フレーム番号は不明。

 

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