多段変速機とギア比

 現在のGPレーサーの変速機は6速までに制限されているが、1960年代のファクトリーマシンの変速機段数は7速以上が当たり前だった。そのギア比が明らかになったものはそれほど多くはないが、スズキについては、日本モーターサイクルレースの夜明けでかなり分っている。また、ホンダについては125cc5気筒RC149のものが明らかになっている。

 これらのギア比を現在のレーサー(代表として2003年型TZ125)と比較してみよう。比較しやすくするために、トップ(8段変速であれば8速がトップ)を最上段に、ギア比はトップを1.000とした値に換算している(RC149は実ギア比=修正ギア比)。

RM62 RM63 RK65(10速) RK65(12速)

修正ギア比

ステップ比

修正ギア比

ステップ比

修正ギア比

ステップ比

修正ギア比

ステップ比

8

1.000

1.000

9

1.000

1.000

10

1.000

1.000

12

1.000

1.000

7

1.067

1.067

8

1.067

1.067

9

1.030

1.030

11

1.030

1.030

6

1.151

1.079

7

1.151

1.079

8

1.075

1.043

10

1.063

1.031

5

1.242

1.079

6

1.242

1.079

7

1.144

1.065

9

1.109

1.043

4

1.391

1.120

5

1.340

1.079

6

1.232

1.076

8

1.155

1.042

3

1.614

1.160

4

1.498

1.118

5

1.330

1.080

7

1.201

1.040

2

1.960

1.215

3

1.739

1.161

4

1.478

1.111

6

1.281

1.067

1

2.705

1.380

2

2.087

1.200

3

1.706

1.154

5

1.376

1.074

1

2.563

1.228

2

2.033

1.192

4

1.533

1.114

1

2.534

1.247

3

1.763

1.150

2

2.185

1.240

1

2.957

1.353

RT62 RT63 RC149 '03TZ125

修正ギア比

ステップ比

修正ギア比

ステップ比

修正ギア比

ステップ比

修正ギア比

ステップ比

7

1.000

1.000

8

1.000

1.000

8 1.000 1.000

6

1.000

1.000

6

1.082

1.082

7

1.069

1.069

7 1.040 1.040

5

1.055

1.055

5

1.215

1.123

6

1.167

1.091

6 1.100 1.058

4

1.154

1.094

4

1.370

1.127

5

1.273

1.091

5 1.190 1.082

3

1.304

1.130

3

1.607

1.173

4

1.432

1.125

4 1.310 1.100

2

1.507

1.156

2

2.000

1.244

3

1.678

1.172

3 1.500 1.145

1

1.847

1.225

1

2.625

1.313

2

2.077

1.238

2 1.760 1.173

1

2.705

1.302

1 2.330 1.324

 60年代のレーサーのギア比の特徴は1速とトップの比が大きいことである。03TZ125は1.9弱しかないし、ホンダRS125も同程度であるが、60年代の125ccマシンは1速とトップの比が2.3〜2.8もある。2.8であれば現代の一般市販車と同じである。

 RT62は7段変速で03TZ125より変速機段数が多いのだが、7〜2速の6段のギア比は03TZ125よりワイドである。また、8段変速のRT63、RT64の8〜3速のギア比は03TZ125より少しだけクロースしているだけである。
 また、RC149とRT63は同じ8段変速であるが、ギア比はかなり異なる。両車の「1速ギア比/6速ギア比」を同じにするためにはRC149に2速追加し10段変速にすることになる。

 67年最終戦日本GPで登場したスズキRS67U(125cc4気筒)は12段変速だった。1983年のタイムトンネル(筑波サーキット)、95、96年のスズカヒストリックミーティングを走ったが、スズカ(ショートコース)では、ホームストレートで7速までしか入らなかったとのこと。

 このようなことから、当時はレース毎に変速機の個々のギア比をコースに合わせて変更するのではなく、せいぜい1-3種類のギアセットを選択することを前提に、あらかじめ変速機の段数を多くしておき、コースによっては全てのギアを使うのではなく、8段変速であれば2〜8速を使用したり、1〜7速を使用するようなことも多かったのではないかと想像する。

 さて、現代の125ccレーサーは筑波では1〜5速(または2〜6速)しか使わない。鈴鹿ではもちろん、1〜6速を使うが、7速の必要はないだろう。しかし、富士の様に最高速がさらに伸びるサーキットであれば、仮に1速のギア比(一次減速比、二次減速比、タイヤ径を含めた実質的なもの)が鈴鹿と同じなら、7〜8速の必要性がある。仮に8段変速が許されると仮定し、その8段変速のまま鈴鹿を走った場合、8速全てを使うのではなく、1〜6速を使うことになる。しかし、この8段変速車が他の6段変速車よりパワーバンドが狭いわけではない。
 
 変速機段数の異なる2車を比較し、どちらが低速重視かは変速機段数だけでは分らない。

 ヤマハRA31(67年型125ccV型4気筒)の変速機が9速(実はRA31にも11段変速仕様があったようだ)でスズキRS67Uの12速より少ないことから、1960年代後半のヤマハマシンはパワーバンドを広げることに留意していたといわれているが、それは変速機段数だけでは分らないのである

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