エンジンの摩擦損失

  私のVitz 1.0Fのエンジンはダイハツ製3気筒だ。世界初の自動車用3気筒エンジンがどんなものかは知 らないが、自動車用3気筒エンジンが注目されるようになったのは、1977年発売のダイハツ・シャレードの1リットル3気筒エンジンからだろう。最近では3気筒エンジンも増えているが、3気筒のメリットとして「フリクションロスの低減」(以下、摩擦損失をフリクションとする)が挙げられている。3気筒のフリクションについて、日産の方が次のように語っている(http://gqjapan.jp/car/news/20130321/w_nissan3a/page/2)。

我々の試算では、3気筒のほうが約3%ほど熱効率が高いです(略)シミュレーションすると、400〜700ccくらいが効率も高く、ノッキングも避けられる容積だという結果が出ています (略)それから同じ排気量同士比べると、部品点数が少ないので、3気筒のほうが4気筒よりも約20%フリクションが小さくなります

 そして、それを示す図も掲載されている。しかし、常識的に考えれば、明らかにおかしい。図中に示された1.2リットルを例にとると、

 1.2リットル4気筒から1気筒取って0.9リットル3気筒にしても、単純に考えてフリクションは75%にしかならないはず

だからだ。しかも、クランクシャフト・メインベアリング数は5→4(80%)にしかならないし、カムシャフト駆動チェーン数は1→1(変化なし)なので、75%までは減らな い。

 そして、同一排気量のまま3気筒化するなら、気筒あたり排気量は4/3倍になるので、個々の運動部分は

(1)摺動部分の表面積/気筒:(4/3)2/3倍=1.21倍
(2)各部の寸法:(4/3)1/3倍=1.10倍→ア 運動部分の摺動速度:1.10倍
                      →イ 運動部分の加速度:1.10倍
(3)往復運動部分質量/気筒:4/3倍→往復運動部分の慣性力/気筒:(4/3)4/3=1.47倍
((2)−イを乗じて)

になる。

 日産が「同一排気量でも4→3気筒化により20%フリクションが減少」と主張するなら、もっと根拠を示した方がよい。「部品点数が少ない」で、記者はともかく購買層全てが信用する訳はない。まあ「古い4気筒エンジンと比べて新しい3気筒エンジンは20%フリクションが小さい」の「古い」と「新しい」を省略したものだとは思うが。

 日産の宣伝文句はさておき、エンジンのフリクションについて、もう少し考えてみる。

 日産作成の図は勉強になる。L4とL3の差が20%なので、その差×5=L4のフリクション。
 スケールの1目盛は2Nmなので、2000rpmのL4のフリクション=5Nm程度になる。そして、例えば
   1.2リットル3気筒の4/3倍→1.6リットル4気筒
   1.2リットル3気筒の2倍→2.4リットル6気筒
 のフリクションをグラフから読み取れば、「この」3気筒が、4気筒、6気筒に比べて浮いた存在であることが分る。
   
1 自動車用エンジン

 右図は某社の古い2リッター直列6気筒エンジンのフリクションを示す図である(「自動車用ガソリンエンジン設計の要諦」(石川義和、山海堂2002)から引用)。図中の「擦動損失」を日産がいうフリクションとする。

 このうち、動弁のフリクションは回転数増加に伴い減少するため、「ピストン&コンロッド+クランク」の曲線を、回転数とフリクションの関係を考える見本の曲線とする。 また、フリクションには

(1)回転数の2乗に比例する成分→摺動部に働く力(加速度×質量)に比例

(2)回転数に比例する成分→摺動部表面積と摺動部速度に比例

(3)回転数に関係しない成分→静止状態から動き出す瞬間のもの→摺動部表面積に比例

があるとする。そして、右図の曲線の値を読み取り曲線を再現し、多項式近似(次数2)し得た式を参考に、1.2リットル4気筒のフリクション)を示す式を次のとおりとした。

フリクショントルクTr=(0.105(rpm/100)2 + 13.1(rpm/100) + 196)/1000

   
 これを3気筒化すると、右辺( )内の

第1項→加速度×質量×箇所数に比例→(4/3)4/3×3/4=1.10倍

第2項→表面積×速度に比例→(4/3)2/3×3/4×(4/3)1/3×=1倍(変化なし)

第3項→表面積に比例→(4/3)2/3×3/4=0.909倍

になる。2気筒も同様に式を求め、回転数とフリクショントルクの関係を計算すると、右図のようになる。

 図中の赤線が3気筒だが、4気筒(青線)に比べ低回転ではフリクションが小さく、2000rpmでは2.7%減。回転上昇により関係は逆転し、6000rpmでは1.4%増になる。

 通常走行時の燃費に大きく影響する4000rpm以下で3気筒のフリクションが小さいことは利点ではあるが、その程度は小さく、むしろ、冷却すべき燃焼室表面積が0.909倍にな り、冷却損失が減少することが熱効率に大きく影響すると思われる。

   
2 2輪車用250tエンジン

 1と同様に250t1気筒、2気筒、4気筒について図を作成してみた。

 回転数2乗項が効いて、回転数上昇とともにフリクションが急激に増大するが、高回転では気筒数が多い方がフリクションは小さい(回転数が同じなら)。

 「多気筒化によりフリクションが増加する」

は、高回転・同回転数での比較なら誤りである。

 ただ、多気筒化により回転数限界が高くなる。1気筒エンジンの回転数限界を8500rpmとすると、2気筒回転数限界:10700rpm程度、4気筒回転数限界:13500rpm程度になるが、それぞれのフリクションを比較すると、

「回転数限界時のフリクションは気筒数増加により増加」

することになる。最高出力時回転数でも同じである。
 

 まあ、両グラフとも当てずっぽうの理論・数値での計算結果なので、「こんなことがいえるかもしれない」ぐらいに受け止めていただきたい。

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補足 ホンダNSF250Rエンジンのフリクション

 ホンダNSF250Rの記事(http://www.frixion.co.jp/wp-content/uploads/2014/08/nsf250r.pdf)中、NSF250RとCRF250RのフリクションがFig.5に示されているが、縦軸(フリクショントルク)に値が記載されていない。図中の「21%」を参考にフリクションの変化率を求めると、4000rpmのフリクションはゼロ前後になる。1000rpmでは明らかにマイナス(損失ではなく駆動)である。

 ファクトリーマシンではない、誰でも購入できる市販レーシングマシンのデータ(数値)を公開したくないのは、このグラフが宣伝のためのものだからだろうが、下手な細工をしたグラフの信用性はゼロで、逆宣伝になっていると思う。