無為な議論

 Wikipediaで「馬力」を検索すると、以下の文が書かれている(2010.12.25現在)。

 馬力(ばりき)は仕事率、工率の単位である。名前の通り、元々は馬一頭の持つ力を1馬力と定めたものであった。今日では、ヤード・ポンド法に基づく英馬力、メートル法に基づく仏馬力を始めとして、各種の馬力の定義がある。国際単位系 (SI) における仕事率、工率の単位はワット (W) であり、馬力は併用単位にもなっていない。

 1馬力というのは駄馬(荷を引く馬)が継続的に荷を引っ張る際の仕事率を基準にしており、単純に「馬の最高出力=1馬力」を表すわけではない。

 実のところ、私は「馬力」という言葉が好きではない。上の文でも「馬一頭の持つ力」と書かれているが、「馬力」の「力」が物理の「力」と混同されるからである。物理用語としての「力」は物体の速度を変化させるもので、馬力は

仕事/時間力×距離/時間=力×速度

であり、決して「力」そのものではない。

 しかし、バイクにしろ、自動車にしろ、飛行機にしろ、その運動状態を変化させるのは「力」である。そして、バイクが運動しているのであれば、「距離」、「速度」を計測し、その運動状態の必要馬力を求めることができる。

 ジェットエンジンの場合、「馬力」ではなく「推力」でエンジンの能力が示されるが、ジェット機が推力により運動すれば「ジェットエンジンの馬力」を求めることができる。ジェットエンジンは熱機関であり、馬力や熱効率が求められなければおかしい。そもそも、回転機関に適用される

馬力(PS)=トルク(kgf・m)×回転数(rpm)/716.2 

という計算式も、「馬力=力×距離/時間=力×速度」から求められる。

 さて、こちらの掲示板では、ジェットエンジンの推力と機体速度から馬力を求める換算式を提示した方に対して、サイト管理者が次のとおり換算出力計算例を示し、公称推力の大きいB747のエンジンの換算出力がF-15のエンジンより小さいことから、サイト管理者が「換算式はデタラメ」 、「力を馬力には換算できない。高校の教科書を見ろ。」と決めつけた。そして、掲示板上ではこの発言を「根拠がある」と同調する者まで現れた。

           kgf  m/s    PS
・B747(旅客機) 22000×300/75=88000
・F-15(戦闘機) 10000×700/75=93333

・公称推力は地上・静止状態で測定したものだが、実際の推力は速度、気圧、温度によって大きく変化する。F-15が速度を700m/sから300m/sに落とせば 各速度での最大推力は半減する。JALのサイト中のこちらの頁が参考になる。
・したがって、推力(ある条件での飛行時)×速度(ある条件での飛行時)に意味があっても、公称推力(地上・静止状態)×最高速度(飛行状態)には何の意味もない。

科学的な問題を議論するためには、

・用語の定義が明確であり、その定義の意味が理解されていること
・基本的な法則、原理が理解されていること
・データの採取方法とデータの誤差が生ずる要因が理解されていること

が必要であるが、いずれの「論者」もこれを理解していないことが「議論」を無為な罵り合いにしてしまっている。これは飛行機の例だが、バイクの世界でもこのような無為な議論は珍しくない。一定の支持があるジャーナリストが次のような文(ライダースクラブ2010-10)を書くのだから、当然といえば当然である。

・4サイクルエンジンを2回転で0.02PSとすると、1分で100回転すれば1PS
・馬力は同じトルクを単位時間にどれだけ発揮するか

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