JC08モードによる燃費測定  

 2016年現在、乗用車の燃費測定はJC08モードにより行われている。JC08モードそのものの問題点については多くの方が指摘されているが、ここでは

(1) 手動変速車の冷遇
(2) アイドリングストップ仕様車の過大評価
(3) ハイブリッド車の測定に関する疑問点

について触れてみたい。なお、排出ガス(燃費)測定法は次のサイトによる。http://www.mlit.go.jp/jidosha/kijyun/saimokubetten/saibet_042_00.pdf

1 手動変速車の冷遇

 下図はJC08モードの時間(秒、横軸)と速度(km/h、黒線、左縦軸)、NDロードスター(手動6段変速)が走行した場合の変速機ギア(灰色棒グラフ、右縦軸)とエンジン回転数(rpm、赤線、グラフ中赤数字)、必要エンジントルク※(kgf・m、青線、グラフ中青数字)を示したもの。


※1秒間の速度変化から加速度を求め、車重1060kg(990kg+ドライバー70kg)、60km/h等速走行時の空気抵抗消費出力3PS・転がり抵抗消費出力3PS、変速機・ディファレンシャル 等伝達効率0.9、タイヤ径602oとして算出 (他に必要な諸元はカタログ値)。 実際にはこの計算結果に加え、回転部分の回転数上昇のためのトルクが必要※。
 計算結果がマイナスになのはエンジンブレーキが働いている状態。実際にはエンジンブレーキだけで必要エンジントルク(マイナス)を発揮できないので、当然ブレーキが必要である。

※質量10kgの地球儀があると仮定する。これを1m持ち上げるという仕事は10×1=10kgf・mだが、持ち上げても地球儀は回らない。地球儀を1m持ち上げると同時に(回転していない)地球儀を回すという仕事をすれば、10kgf・mより多くの仕事をしたことになる。

 車・バイクの場合も同様で、エンジンは車を加速するという仕事以外に、クランクシャフト→変速機→タイヤといった回転部分の回転速度を上げるという仕事をしている。乗用車の場合、1速で加速する時、エンジン出力の40%程度が自動車の加速に使われ、残りの60%程度が回転部分の 回転数上昇に使われる。そして2速、3速とギア比が高くなるにつれ、自動車の加速に使われる割合が増加する。

 実はJC08モードでは

●自動変速車はDレンジ
●手動変速車は使用するギアを時間毎に指定(車種に関係なく)

である。つまり、手動変速車では、

1→2にシフトアップし(必要エンジントルクが増大しても)エンジンが必要エンジントルクを発揮できるにも関わらず1速で走り続ける

というようなことが起きる。

 例えば上図の93〜100秒頃は1速で3135rpm(99秒)まで引っ張るが(100秒で2速に入れるので、その直前であれば3530rpm)、99秒での必要エンジントルクは3.56kgf・mでしかない。

 また、6段変速車であっても6速を使用できるのは37秒(1115〜1152秒)だけで、しかも、そのうち26秒は減速である。

 93秒以降を例にして回転数を低くするよう変速タイミングを変更してみた結果が右図。赤点線が変更後の回転数、青点線が変更後の必要エンジントルクである。なお、変更後の変速機ギアは示してない。

 回転数を低くしすぎではないかと思われるかもしれないが、ロードスターはこの回転数でも走ることができるし、JC08モードに定められた加速度を得ることができる(ロードスターのトルク曲線はこちらで(マツダ技報から引用)、1500rpmでも128Nm(13.0kgf・m)を発揮できる)。


 同様に1046秒以降の変速タイミングを変更した結果が右下図。 このように走れば、

●必要エンジントルク増大によるポンプ損失低減

●回転数低下による摩擦損失低減

による燃費向上が期待できる(冷却損失が若干増大するとはいえ)。

 「ロードスターでこんな走り方をする人はいない」と言われるかもしれない。

 しかし、そもそもJC08モード自体、1速で20km/h以上引っ張るにも関わらずアクセルはあまり踏み込まない(エンジントルクを控える)という不可思議な走りを強要している。そもそも手動変速車でJC08モードどおりに走る人はいない。

   

 他車の例を出そう。

 ホンダS660(6MT)、ダイハツ・コペン(5MT)のJC08モード燃費はそれぞれ21.2km/l、22.2km/lで後者の方がよい。しかし雑誌等の燃費測定では前者が良いことが大部分のように思う。

 右図は2車のエンジン回転数と速度の関係を示したもの。黒線がS660、赤点線がコペンで、5速は2車ともほぼ同一線上。

 2〜4速ではS660の方が回転数が高い。本来なら回転数が高くなるなら可能な範囲でシフトアップすればよいのだが、それは規定上認められないし、6速を使う機会も少ないことが、S660のJC08モード燃費がコペンより悪い最大の原因だろう。

 実走行ではこのような制限がないので、6速のS660が5速のコペンより燃費がよくなるのは当然である。

 自動変速機(AMT、DSGを含む)の場合、Dレンジを選択すれば勝手に燃費のよい減速比を選択するので、このようなことは起きない。

 JC08モードによる測定は手動変速機車を冷遇しているとしか思えない。

Wikipedia「JC08モード」に次の記述があった。

「このため、JC08モード燃費に特化した制御の可能なAT車に対して、実際の路上におけるギアの選択とJC08モード規程における指定ギアとの乖離があるMT車に対して不利な計測モードとされるが、他方でディーゼル車においては現在までにJC08モード燃費が公表された全ての車種においてMT車の燃費値がAT車より優れている他、一部のガソリン車においてもMT車のほうが優れた燃費を記録する例があるため、一概にMTだから不利であるとは限らず、エンジンの特性や車両質量などの要素が総合的に関係していることに留意する必要がある」

 ガソリン車とディーゼル車の差は、ガソリンエンジンはディーゼルエンジンより部分負荷特性が悪い(部分負荷時の熱効率低下がディーゼルエンジンより著しい)ことによる。このため、ガソリンエンジンの場合、ギアの選択がディーゼルエンジン以上に燃費に大きく影響する。「一部のガソリン車においてもMT車のほうが優れた燃費を記録する例があるため、一概にMTだから不利であるとは限らず」とあるが、ギアの選択が自由ならさらにMTの燃費がよくなる可能性が高いことは無視されている。
 Wikipediaは「本来15km/lの燃費を発揮できるMT車が12.8km/lしか発揮できない条件を設定し、最良の条件で12.4km/lしか発揮できないAT車と比較し「一概にMTだから不利とはいえない」と言っているのである。

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