汚れた英雄に登場するマシン

 ヤマハ全面協力の下に製作された映画「汚れた英雄」は1982年に公開された。主演は草刈正雄だが、本当の「俳優」は走行シーンを演じたゼッケン62・平忠彦、ゼッケン1・木下恵司、ゼッケン20・上野真一と彼らのマシンであり、そのマシンについて触れてみる。

1 ゼッケン62・平忠彦のマシン

(1) TZ500H(1981年型TZ500)
 1980年型市販レーサーTZ500Gの改良型で、スイングアームが太くなったのが特徴。映画では菅生で2つのレースがあったことになっており、1つめのレースで使用されたマシン。ただし、1つめのレースの1周目のバックストレッチの走行シーンでは(2)のマシンが写っている(TBCビッグロードレースの実レース映像)。

 当時、ヤマハの500tファクトリーマシンでは、YPVS(ヤマハ・パワー・バルブ・システム)を電子式コントローラーで作動させていたが、TZ500では機械式ガバナーで作動させており、右上でフェアリングの継目の上に機械式ガバナーが写っている。

(2)TZ500J(1982年型TZ500)
 並列4気筒の両外側2気筒が後方排気になったマシンで、2つ目のレースで用いられたことになっている。TZ500なのでYPVS用機械式ガバナーが装着されている。また、0W53(又は0W54)の前フォークが装着されており、当然、フォーク頂部にエアバルブも取り付けられている。なお、下左は富士スピードウェイで撮影されたもので、2レース間に行われたテスト走行という設定。
 

 ただし、整備中のマシンの前フォークはTZ500Jのもの。前ディスクローター、ホイールが異なる。

2 ゼッケン1・木下恵司のマシン

(1) 0W60(1982年型スクエア4気筒YZR500)
 市販レーサーだけでなくファクトリーマシンも登場する。
 
 左上では16インチ前ホイール、右上では18インチ前ホイールで、両車のフェアリングの孔の形状、ステッカーの種類、位置も異なる。

(2) 0W53(1981年型並列4気筒YZR500)
  0W53についてはこちら。TZ5000Jと同じ両外側後方排気の並列4気筒だが、TZ500Jと異なりアルミフレームで前フォークも異なる。0W53にはファクトリーチーム以外に提供された0W53Pと称されるマシンもあり、外観では排気サイレンサー(CFRPではなくアルミ製)、テールカウル(サイレンサー等が露出)が0W53Pの特徴だが、下のマシンではサイレンサーはアルミだが、テールカウルは0W53Pのものではない。映画撮影用に組まれたマシンなのだろう。
 
 0W53のYPVSには板型と鼓型があるが、このマシンは板型のようだ。

(3) TZ500J(1982年型TZ500)?
 TZ500用前フォークが装着されたマシンも用いられた。右下ではTZ500Jのスチールフレームではなく0W53のアルミフレームのように見える。
 
 
 しかし、下では黒塗装のスチールフレームの一部にアルミ色のテープを貼ったようにも見える。そうなら、このマシンはTZ500Jに0W53のテールカウルを装着したマシンということになる。

3 ゼッケン20・上野真一のマシン

 TZ500G又はTZ500Hと、TZ500Jが用いられた。TZ500Jは平が乗ったマシンと基本的に同じだが、もう1台のマシンのスイングアームはTZ500G、TZ500Hのものではない。1980年日本GPで複数のチームにヤマハから提供された補強スイングアーム(下右は水谷勝のTZ500G)に酷似しており、このマシンはTZ500G+補強スイングアームかもしれない。
      

4 参考

 この映画の菅生での走行シーンは、菅生を借り切って撮影されたものに加え、全日本選手権レース、TBCビッグロードレースの映像もある。下は映画で用いられたTBCビッグロードレースの一場面で、ゼッケンRのケニー・ロバーツ用0W60とケル・カラザース、ヤマハの前川和範氏が写っている。同レースに出場したグレーム・クロスビー、このレースが引退レースとなった金谷秀夫の走行シーン(いずれも0W60)も僅かだがある。

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