林義正氏の見解(2019年現在)
林氏は1991年の後に見解を改めたようであり、以下のとおりデスモドロミックバルブ作動系は高回転になるほど摩擦損失が増大するとしている。
オートメカニック 2019-5(内外出版社) AM(高)はオートメカニック誌担当者、林教授は林義正氏。 AM(高) (略)あと、デスモではカム駆動の抵抗が少なくて、手回しでカムが回せると聞きますね。 林教授 ええ、確かに手回しのような低回転ではいいんです。(略)しかし、バルブの往復では加速度が問題になってきます。通常は、バルブを開ける時は力がいりますが、閉じる時はバネでカムが回されるようになります。このおかげで単気筒より多気筒用のカムの方が滑らかに回ります。ところが、強制開閉式では、閉じるのにもエネルギーが必要になるんです。ですから、手回しでスコスコと回る軽さとは裏腹にエンジンを回した時のパワーロスは増えてしまい、高回転になるほどバルブを戻すためにヒィヒィいうことになってしまうんですヨ。 AM(高) なるほど〜。手回しの極低速回転と実際の運転で加速度が加わった時では、カムを回す抵抗がぜんぜん違うんですね。そうすると、バルブの加速度ってどの程度になるんでしょうか? 林教授 ざっとですが、最大で100Gくらいになるでしょうから、800〜900m/秒(注:m/秒2の誤り)くらいです。たとえば60gのバルブに100Gが加わると、60の100倍で6000g、つまり6キログラムを一生懸命動かすことになります。これはナカナカ大変ですよ。 |
ただし、この文ではバルブスプリングエンジンとデスモドロミックエンジンのどちらのバルブ作動系摩擦損失が大きいのかは分らない。
なお、「最大で100G」は数字が小さすぎる。ボッシュ自動車ハンドブック(シュタールジャパン1999)では、乗用車用のSOHCバルブ機構の代表的な加速度を次のとおりとしている。
シングルおよびツインロッカーアーム機構 6000rpmで6400m/s2 (注:652G)
オーバーヘッドバケットタペット機構 6000rpmで7900m/s2(注:805G)
林氏のいう「100G」がどの程度のものか試算してみる。バルブが開いている期間(角度)を260度とし、バルブ閉から最大バルブ速度になるまでの加速度一定(A)とし、その加速度と絶対値が同じ負の加速度(−A)で減速し速度ゼロになり(最大バルブリフト)、さらに閉じる方向に同じ加速度(−A)で加速し、加速度Aで減速しバルブ閉になる単純な動作で試算すると、100G、6000rpmであればバルブリフトは6.4mm程度にしかならない。もちろん、実際のバルブ加速度は大きく変動するので、もっと小さなリフトになる。
そもそも「6s」なら、どれほど楽なことかと思う。
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