KR250の慣性力の釣合 kawasaki

  
 1975年に登場したカワサキKR250レーサーは当初180度間隔点火で振動が大きかったが、2気筒同時点火にして振動問題を解決した。この両点火方式の慣性力の釣合について考える。

1 180度クランク並列2気筒  

 KR250が登場した1975年、KR250のライバルになるはずだったのはハーレーダビッドソン(アエルマッキ)250、ヤマハTZ250であり、何れも「180度クランク並列2気筒・バランサーシャフト無し」だったので、この慣性力の釣合いについてまず考える。

※以下、カウンターウエイト、バランスウエイトの区別なしにバランスウエイトと表記する。

 ピストン等の往復運動部分の慣性力は次の式で示される(3次以下は省略)。

1次慣性力=質量×クランク半径×(2×円周率×rpm/60)2×cosθ 

2次慣性力=質量×(クランク半径/コンロッド長)×クランク半径×(2×円周率×rpm/60)2×cos2θ

※θ=上死点からの回転角、クランク半径=ストローク/2

 クランク半径/コンロッド長を1/4、上死点での1次慣性力をPとすると、上死点、90度/270度回転、下死点での慣性力は次の表のとおり(上死点方向がプラス、下死点方向がマイナス)。

クランクピン位置 1次慣性力 2次慣性力 合計
上死点 P 0.25P 1.25P
90度/270度回転 0 -0.25P -0.25P
下死点 -P 0.25P -0.75P

 180度クランク並列2気筒(バランサーシャフトなし)の慣性力等の釣合を図示する。バランス率は50%(バランスウェイト遠心力が1次慣性力の50%を打ち消す)とした。横方向の力については正負を示していない。


赤矢印
:1次慣性力
黒矢印:バランスウエイトの遠心力(絶対値=0.5P)
青矢印:2次慣性力(0.25P又は-0.25P)

 例えば上死点の「0.75P」は

P(1次慣性力) + 0.25P(2次慣性力) - 0.5P(バランスウエイト遠心力)

 「-0.25P」は

-P(1次慣性力) + 0.25P(2次慣性力) + 0.5P(バランスウエイト遠心力)

を示す。


 1次慣性力のみであれば、0.5P×L(ボアピッチ)の偶力がクランクシャフト回転により向きを変えるだけだが、2次慣性力を加えると1次慣性力のみとは異なる印象を受けるだろう。

 2 KR250(バランス率50%)

 このエンジンはタンデム2気筒(前後2気筒)で、各クランクシャフトが直接ギアで連結されている。このクランクシャフトのバランス率50%とした場合について、180度間隔点火と2気筒同時点火を比較する。「2気筒同時点火・90度」については横方向の力が釣り合い偶力も残らないので、力の大きさ(数字)は示していない。

  上死点 90度 下死点
180










 2気筒同時点火の上死点で0.75P×2=1.5Pの不釣合いが大きな振動を生む。180度間隔点火では90度回転時に横にP、下に0.5P、計1.12Pの不釣合いを生じるが、2気筒同時点火の最大1.5Pよりは小さい。また、上死点と下死点で0.25P×L(前後ボアピッチ)の偶力を生じる。これは180度クランク並列2気筒と同じだが、KR250の前後シリンダーピッチは90mm程度でTZ250(並列2気筒)のシリンダーピッチ102mmより小さいと思われるため、この偶力はTZ250より小さいのではないか。

3 KR250(バランス率75%)

  バランス率75%とした場合についても、180度間隔点火と2気筒同時点火を比較する。

上死点 90度 下死点
180










 2気筒同時点火の釣合はバランス率50%の180度間隔点火及び2気筒同時点火の何れよりも良い。バランス率をさらに上げると釣合はさらに良くなるが、クランクベアリングの横方向の負荷が大きくなる。
 180度間隔点火では上死点、下死点の釣合は良いが、90度(270度)回転時には横に1.5Pの力(上下の0.5Pを加えると計1.58P)が働き大きな振動になる。バランス率をさらに上げるとさら前後方向の振動が悪化する。

4 KR250点火間隔変更の経緯(想像)

 2ストロークエンジンでは1次圧縮比を大きくするためクランクケース内の隙間容積を小さくしなければならない。このため、4ストロークと異なりクランクシャフトのクランクピン周辺の体積を大きくしなければならず、バランス率を上げ難い。バランス率を上げるためにはタングステン埋込量を増やす等の高コスト技法が必要となる。

 KR250が180度間隔点火から2気筒同時点火に変更になった経緯は以下のようなことではなかったかと想像する。

〇AMA(アメリカ)のレースで走らせるためには25台以上製造しなければならないが、高コスト化を避けるためクランクバランス率を50%程度を前提に180度間隔点火か2気筒同時点火かを検討した。
〇180度間隔点火の方が振動が少ないと判断しこれを採用したが、実際には大きな振動を生じた。また、180度間隔点火ではクランクギアに大きな負担がかかるため、クランクギアの交換頻度が高かった可能性もある。2軸クランクエンジン
〇高コスト化に目をつぶりクランクバランス率を上げ2気筒同時点火にして振動を低減させた。

5  参考

(1) 市販・KR250(バランス率50%)

 1984年に発売されたKR250はタンデム2気筒だが、KR250レーサーとは異なり前後2気筒のクランクシャフト回転方向は同じで180度間隔点火である。下にクランクバランス率50%とした場合の慣性力の釣合を示す。

  上死点 90度 下死点
180




 180度クランク並列2気筒より釣合が良い。
 クランクバランス率を上げていくと、さらに1次慣性力の釣合いは改善されるが、前述のように2ストロークエンジンのクランクシャフトのバランス率を上げるのは高コストであり、市販KR250がKR250レーサーと異なる2気筒同方向回転クランクになったのは、クランクバランス率を上げずに並列2気筒以下の振動にするためだったのではないか。
  もちろん、2気筒同時点火では低回転時の燃焼室内圧力変化によるトルク変動が大きくなることも判断材料の一つだっただろう。

 しかし、2ストローク2軸クランクエンジンでは、同時点火にしないとクランクギアに大きな負担がかかる。2軸クランクエンジン  このため、市販KR250はクランクギアにダンパーを装着していた。

(2) タンデム2気筒の先例

 各クランクをギアで直結したタンデム2気筒の先例としては、第2次大戦前のベロセットRoarer(クランクシャフト縦置、4ストローク500tスーパーチャージャー)がある。 The Velocette Roarer engine

 1970年頃のMZ125ccレーサーはタンデム2気筒だったが、KR250レーサーと異なり、市販KR250と同様の2気筒同方向回転・180度間隔点火だったと思われる。MZ RE 125 Tandem - motorostalgie  
 
 2本クランク挟角V型2気筒であれば、1967年に登場したデルビ125がある。(11) Facebook

  ロータリーバルブ2気筒を成立させるためには、クランクシャフト1本なら並列2気筒かV型2気筒、クランクシャフト2気筒ならタンデム2気筒かV型2気筒になるし、そもそもロータリーバルブ・タンデム2気筒は1963年にスズキが登場させた250tロータリーバルブ・スクエア4気筒を縦に割った形である。誰が最初に登場させたかは大いに意味があるが、さらに重要なのは誰が最初に成功させたかである。

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