クランクケース内容積変化

 往復動エンジンはピストンの上下に伴い、
・クランクケース内(ピストン下)の気体の体積が、全体として、また局部的に変化し、
・その気体が各部に流れ
・クランクシャフトがクランクケース内の気体をかき回す
ことにより、抵抗となる。

 ピストンの上死点からの変位は次式で示される。

x = L + r - rcosθ - L(1 - (r/L)2sin2θ)1/2
L:コンロッド長
r:クランク半径(ストロークの1/2)
θ:クランク回転角
x:上死点からのピストンの変位(ピストンが下がる長さ)

  各エンジンの点火間隔、ボア×ストローク等を右表のとおりとし、ホンダRC211Vを例にとって、体積変化を考える。
 

マシン名 点火間隔(度) ボア×ストローク
(仮定)
コンロッド長
(仮定)
ホンダRC211V 284.5-75.5-104.5-180-75.5 74×46o 92o
2004ヤマハYZR-M1 270-180-90-180(推定) 79.3×50o 100o
2004カワサキZX-RR 180等間隔
ドゥカティD16GP3 270-90-270-90(推定)
 RC211Vの点火順序は1-4-3-2-5(ライダーから見て、前方バンクの左側からNo1、2、3、後方バンクの左から4、5と番号を付けた)、点火間隔は284.5-75.5-104.5-180-75.5度だが、1番気筒の回転角がθの時、他の気筒の回転角は右表のとおりになる。
気筒番号 1 2 3 4 5
回転角 θ θ-104.5 θ θ-284.5 θ-284.5
 この時の各気筒のピストン変位は右表のとおり。この合計は、全気筒のピストンが同時に上死点にあると仮定した位置からの変化である。
気筒番号 ピストン変位
1 L + r - rcosθ - L(1 - (r/L)2sin2θ)1/2
2 L + r - rcos(θ-104.5) - L(1 - (r/L)2sin2(θ-104.5))1/2
3 L + r - rcosθ - L(1 - (r/L)2sin2θ)1/2
4 L + r - rcos(θ-284.5) - L(1 - (r/L)2sin2(θ-284.5))1/2
5 L + r - rcos(θ-284.5) - L(1 - (r/L)2sin2(θ-284.5))1/2
 上表の1〜5気筒のピストン変位にピストン面積を乗じたものが体積変化になる。前記の仮定ボアから各エンジンの体積変化を計算すると右表のとおりになる。

 これは全気筒のピストンが上死点にあるというありえない位置からの変化量を表しているため、各エンジンの絶対値の比較は無意味であり、各エンジンそれぞれの変化量の差に意味がある。

 図で明らかなように、2004YZR-M1(推定)はクランクケース内容積が変化せず、最もクランクケース内容積変化が大きいのはD16-GP3(推定)である。
 各エンジンの最大と最小の差は下表のとおり。

マシン名 クランクケース内容積変化(ml)
ホンダRC211V 486
2004ヤマハYZR-M1(推定) 0
2004カワサキZX-RR 63
ドゥカティD16GP3(推定) 699
 このようにV型エンジンのクランクケース内容積変化の大きさが目立つが、もちろん、これだけでクランクケース内ポンプ損失の大小を議論できるわけではない。ただ、クランクケース内ポンプ損失の評価が素人の手に負えるものではないことは分るだろう。

 異なる形式のエンジンの優劣をバランサーシャフトの有無、クランクベアリング数、バルブスプリングの有無だけで判断しようとする傾向が雑誌屋に見られるが、他の様々な要素の評価はできなくとも、これらは誰でも分るからである。
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