2006年型ZX-RRの点火サイクル   KAWASAKI

 カワサキから2006年型ZX-RRの点火サイクルについて以下のとおり公表されている。

・点火サイクルの呼称は、BBspec4とBBspec4.2の2種類がある。
・BBspec4は90-90-90-450度間隔点火であり、これを変更したのがBBspec4.2。

1 クランクレイアウト      
 2008年1月27日〜2月4日にカワサキワールドで開催されたMOTO-GPフェアで、2006年型エンジンのカットモデルが公開された。オイルパンの形状からするとBBspec4と思われる。

 ライダーから見て左端気筒を1番とし、順に番号を付けて右端気筒を4番とすると、左、中の写真から各気筒のクランクピンの位置は次のように見える。

1番気筒:上死点後45度程度
2番気筒:下死点後45度程度
3番気筒:上死点前45度程度
4番気筒:下死点前45度程度

エンジン左側 エンジン右側 1、2番気筒排気カムシャフト
 1番気筒、2番気筒の排気カムシャフト(前方回転)を見ると、2番気筒のカム山は1番気筒から90度ずれており、1番、2番気筒のクランクピン位置のずれ180度と符号する。
   
 1番気筒が上死点にあるとすると、ライダーから見た各クランクピン位置は右図のようになる。各気筒における1次慣性力とカウンターウエイトの遠心力(最大1次慣性力の1/2と仮定)の合力を赤矢印で、2次慣性力を青矢印で示した。また、本エンジンはバランサーシャフトを備えているので、バランサーシャフトをクランクシャフト後方に図示し、1次慣性力を打ち消すのに必要な力を黒矢印で示した。黒矢印は2本にまとめることが可能だが、分りやすくするため4本のままにしている。
   
 この場合、1次慣性力は完全に釣り合う。2次慣性力は力としては釣り合うが、偶力(図では右に回る)が残る。1番気筒と4番気筒のクランクピン位置のずれを180度、2番気筒と3番気筒でも同様に180度にすれば2次慣性力を完全釣り合いにできるので、このようなクランクレイアウトにしているのは慣性力の釣り合い以外の理由があるからである。

2 点火サイクル

 2006年シーズン中に点火サイクルを変更したとされているが、クランクレイアウトの変更となると、シーズン中の変更としてはリスクが大きい。以下ではBBspec4もBBspec4.2も上図のクランクレイアウトであると仮定した。

(1)BBspec4

 この点火間隔は前述のように90-90-90-450度であることが公表されている。点火順序は、

1-3-2-4  になる。450度間隔は1-3、2-4、4-1の間の3とおりの可能性がある。

(2)BBspec4.2

 2006年シーズン当初、ZX-RRの排気管は4本別々だったが、後半、1-4気筒、2-3気筒の排気管がそれぞれ集合し2本になり、その2本がさらに集合する4-2-1になり、これがBB4spec4.2と思われる。
 上図のクランクレイアウトと同じで90-90-90-450度間隔点火でないならば、点火サイクルは右表のいずれかになる。最初に集合する1-4、2-3気筒におけるそれぞれの点火間隔も表に示した(630度の場合は90度と表記)。 排気干渉を考慮するならば、

点火間隔 1-4間間隔 2-3間間隔
1-2-4-3 180-90-180-270 270 270
1-2-3-4 180-270-180-90 90 270
1-3-4-2 90-180-270-180 270 270
1-4-3-2 270-180-90-180 270 90

点火順序:1-2-4-3/点火間隔:180-90-180-270度

または

点火順序:1-3-4-2/点火間隔:90-180-270-180度

の可能性が高い、というのが現時点での結論である。もちろん、これはBBspec4.2のクランクレイアウトが上図のとおりであることが前提である。

追記1(2017.3.18)

 某オークションにZX-RRのカムシャフトと称するものが出品されていた(http://page19.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/x476294706).。カムシャフトのカム山の位置から実物のように見える。

参考 クランクケース内減圧

 右は展示されたエンジンを左後方から見たもの。バランサーシャフトが収まっている部分の左端が異様に膨らんでいる。下の特許出願内容からすると、クランクケース内を減圧するためのポンプが収まっている可能性がある。

 写真左上に見えるホースはシリンダーヘッドに伸びている。そして右上の写真「1、2番気筒排気カムシャフト」にリードバルブが写っており、排気ポート側にガスが流れるようになっている。したがって、ブローバイガスは排ガス対策用2次空気導入装置のように排気ポートに送られているのだろう。
発明の名称 出願年月日
4サイクルエンジン、及びこれを備える自動二輪車 2005.10.28
4サイクルエンジン及びこれを備える自動二輪車 2005.11.10
追記2(2012.4.29→2017.3.18加筆)

 本頁を公開したのは2008年2月10日だが、自動車技術会のMotorRing34で、カワサキの松田義基氏が次のように書いている。
http://www.jsae.or.jp/~dat1/mr/motor34/mr3404.pdf

「次に研究をしていったのがエンジン爆発間隔特性だ。我々は直列4気筒エンジンをベースにして様々な方式を実戦で確認していった。2気筒同爆x2のBB2、2気筒同爆で他単爆x2のBB,クランクシャフトを真ん中で90度ねじったBB4とBB4-2。」

 左図は同頁から引用したもので、トルク変動を示している。この図からすると、BB4-2は270-450度間隔2気筒同時点火である。

 2008年12月24日、川崎重工業から「インラインエンジン」に関する特許出願が行われており、右図はその添付図でクランクレイアウトを示している。

   
 松田氏が「真ん中で90度ねじった」と書いていることから、図中(b)がBB4-2のものと思われる。ただ、このBB4-2が本文((1及び2)のBB4.2と同じものかどうかは、次の理由から判然としない。

〇本文で書いたように2006年シーズン後半、4-2-1排気管になったが、270-450度間隔2気筒同時点火であれば、排気干渉してしまうのではないか。

〇バランサーシャフトが1軸だけでは1次慣性力を打ち消すことができず、偶力が残ってしまう。

〇上記展示エンジン、オークション出品カムシャフト(実物ならば)は一体何なのだろうか。

 

 

 

 

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