明らかにおかしな記述
二玄社の「SPORTSCAR PROFILE SERIES」の第4巻は「シャパラル 2A/2C/2D/2E/2G/2H/2J」(by檜垣和夫、二玄社2008)で、シャパラル2Jについて次の記述がある(141頁)。
シャパラル2Jがどんな車かは、こちらを参照。 |
「ファンを駆動するエンジンは、ロックウェル社製の”JLO”(元々はドイツ生まれらしい)と呼ばれるスノーモービル用の空冷2サイクルの直列2気筒(排気量は274t)である。〜走行中は5000rpm前後の一定の回転数で回され、55bhpのパワーを発生していた。」
これと類似した記述はインターネット上のサイト(英語を含む)でもよく見られ、これが定説となっているようだ。
しかし、2輪に詳しい人なら、この記述がおかしいことにすぐ気が付くだろう。いや、2輪に詳しくなくても、ちょっと考えればおかしな記述だと気が付くはずだ。つまり、
〇274t、55bhp→当時の250ccGPレーサー並の高出力
〇274t、5000rpm、55bhp→274tにしては異常な高トルク
だからだ。1bhp=1.014PSとすると、
55×1.014×716.2/5000=7.99≒8.0kgf・m
250tあたりに換算すると
7.99×250/274=7.3kgf・m
最終型ヤマハTZ250(5KE4)の最高出力時トルク5.4kgf・mすら上回る異常な高トルクになる。また、この2サイクルエンジンの排気管の形状はこちらの写真で分るが、こんな形状で一般市販2輪並のトルクすら出せる訳がない。
ネット上には「45HP/5500rpm」とする記事もあり、この場合のトルクは250t換算で5.4kgf・mとなる。 |
ちなみに、2Jが走った頃のヤマハ・スノーモービルは348t・20PS/5500rpmで 、274tあたり15.7PS。最高出力時のトルクは2.6kgf・m、250tあたりに換算すると1.9kgf・mになる。
このように、最初に紹介した記述は、調べるまでもなく明らかにおかしいと分るはずの記述である。しかし、どんなにおかしな記述も一度流布されてしまうと、工学部出身のライターによってさえ何のチェックも受けずに引用され「定説」となってしまう見本となっている。