4バルブ
2002年5月7日にNHKが放送した「プロジェクトX」はホンダの1961年マン島TTレース初優勝に至る物語であった。番組の中で「4バルブはホンダ独自のマネではない技術」というような取り上げ方がされていた。やはりテレビは事実は伝えないものだと思う。
何が「世界初」か特定するのは非常に難しいが、初の4バルブエンジンは1910年代のプジョーのレーシングカーということになっている。
1930年頃には2輪、4輪とも4バルブレースエンジンが流行する兆しがあったが、4バルブの優位性を示すことができないまま消えてしまった。4バルブよりもっとはっきりと出力が向上できる手段=スーパーチャージャーがレースエンジンに使用されるようになったこともその一因だった。
第二次世界大戦中の航空機用ガソリンエンジンは大きく「空冷星型エンジン」と「水冷(液冷)V型12気筒エンジン」に分けられるが、後者のエンジン(ロールス・ロイス、ダイムラー・ベンツ、ユンカース、アリソン)はいずれも4バルブだった。
したがって、ホンダが採用した4バルブは決して珍しい技術でもなく、新しいアイデアでもなかった。当時のホンダには第二次大戦中、航空機のエンジニアだった人もおり、そのうちの1人は大戦中にロールス・ロイスのマーリンエンジンを見ていたのだから、4バルブのアイデアを知らなかったとは思えない。
しかし、たとえそうであったとしても、長い間忘れられていた4バルブを復活させ、4バルブの優位性を証明したことはホンダの大きな功績だと思う。
事実を事実として伝えてくれればよかったのだが、あのような取り上げ方をすると逆にホンダをおとしめることになると思うのは私だけだろうか。
なお、1961年の時点でホンダが4バルブの優位性を対外的に立証したかといえば疑問である。ホンダ125ccは2気筒でライバルは単気筒、ホンダ250ccは4気筒でライバルは単気筒、2気筒だったからだ。総排気量が同じ場合、出力は概ね気筒数の1/3乗に比例するので、ライバルの125cc単気筒18PSに対して2気筒で21PS出したとしても、4バルブの優位性を示したとはいえない。多気筒化のデメリットを克服できることを証明したというべきだと思う。出力の比較は測定条件(気温、気圧、湿度、測定個所等)が同じでないと困難だということを考慮しても。
ホンダが4バルブの優位性をはっきり示したのはもう少し後のことである。
では、なぜ長い間、4バルブエンジンは2バルブに対する優位性を証明できなかったのだろうか?
ホンダNRの楕円(長円)ピストン4気筒は真円ピストン8気筒よりバルブ面積が大きいから優れていると考える雑誌屋には理解できないだろう。
「プロジェクトX 挑戦者たち」(2002/9/30日本放送協会)では、放送の内容を修正し、以下のように記述されている。 「航空機のような大型のエンジンでは、4バルブはごくありふれた技術だった。しかし、オートバイのような小型のエンジンでは2バルブが常識〜これまで、500ccエンジンでは4バルブが試みられたケースはあったが、軽量の125ccでの4バルブエンジンは前代未聞。」「世界初の125cc・4バルブエンジン」 この理屈でいえばMVアグスタ350cc3気筒は「世界初の3気筒4バルブエンジン」になり、ホンダと並ぶ功績になる。 (1)「他人のアイデアを125ccエンジンに応用した」 (2)「2バルブに対する優位性を証明できず長い間忘れられていた4バルブエンジンを復活させ4バルブの優位性を証明した」 |
本文へ