4 現存するマシン
(1)RC112E-101/-(フレーム番号不明)
存在が明らかになったのは、私が知る限り、1980年に鈴鹿サーキットで行われたモータースポーツ展に展示された時である。
1980年ホンダモータースポーツ展 | EXCITING BIKE HONDA(1982大洋図書) | 現状 |
エンジンは1962年全日本選手権で撮影されたマシンと外観上、基本的な差は認められない。ただし、1962年当時はクラッチカバーが装着されていたが、現在は失われている。
レストアされる前の状態では手書きのゼッケン3を付けている。1962年鈴鹿全日本選手権でゼッケン3を付けたマシンはなかったはずである。これはその後のテストで走行中のライダー、マシンを区別するため書かれたものだろう。前フェンダーの形状に特徴があるが、全日本選手権(鈴鹿)で谷口が使用したものと同じ。フレームの左シートレールをオイルキャッチタンクにしている。
おそらく1962年鈴鹿全日本選手権で使用された後、テストに供され、そのまま保存されたのだろう。
この2RC114Eはそれまでの50cc2気筒と大きく外観が異なるが、その理由はエンジン右側のカムギアトレインにある。それまではカムシャフト、クランクシャフトのギア以外に3個のアイドラーギアがあるようだが、このエンジンでは2個に減らされているようだ。ホンダの技術者だった八木氏が書かれた「世界二輪グランプリレースに出場したホンダレース用エンジンの開発史」(1994HONDA R&D Technical Review)によると「アイドルギアを1つ省略」したのはRC114Eということであるが、1964年の日本GP、(おそらく)マン島で確認されたマシンのエンジンの形状が1963年日本GPを走ったマシンのエンジンと類似していることからすると、アイドラーギアを1つ省略したのはRC114Eではなく2RC114Eからではないだろうか。
また、2RC114EがRC113F-206に積まれていることからすると、1964年にRC113Fと打刻されたフレームのマシンが走った思われる。しかし、RC114E/RC114Fが1964年シーズン当初から投入されていたのなら、カルネ取得等に要する時間も十分ありRC113Fと打刻されたフレームのマシンが1964年も用いられるということは考えにくい。また、大きく分けて2種類のフェアリングが1964年に用いられており、1つは1963年日本GPの時と同形状である(フェアリング下部を固定するボルトが片側6本のものが主で5本のものもある)。
このようなことから1964年に用いられたマシンは次のとおりだったと想像している。
スペイン、フランス | RC113E/RC113F-1×× | |
マン島〜フィンランド | RC114E/RC113F-1×× | カルネ等の問題のためRC114EがRC113Eと打刻された可能性あり |
日本GP | RC114E/RC113F-1×× | タベリ?、伊藤? |
2RC114E/RC113F-2×× | 谷口、ブライアンズ? |
備考1:1964年マン島で撮影されたと思われるマシンは1963年日本GPでの島崎車と同様に右シートレールをオイルキャッチタンクにしている。
2:1964年日本GPで谷口の乗ったマシンのエンジン後端の形状は2RC114E-203と同じであり、右シートレールをオイルキャッチタンクにして
いないことから、2RC114E-203/RC113F-206(シートレール左をオイルキャッチタンクにしている)と同型と思われる。
3:1964年日本GPでブライアンズの乗ったマシンのクランクケース左後端の形状は2RC114E-203と同じであることからブライアンズのマシン
のエンジンも2RC114Eである可能性が比較的高いと思う。シーズン中盤のマシンのクランクケース左側の写真がないので確信はないが。
5 諸元
いずれも推定を含む。
RC112E/RC112F |
2RC112E | RC113E/RC113F | 2RC113E | RC114E/RC113F | 2RC114E/RC113F-2 | |
ボア×ストローク o | 33×29 | 33×29 | 33×29 | 33×29 | 33×29 | 33×29 |
バルブ数 | 2 | 2 | 4 | 2 | 4 | 4 |
バルブ径 o | 吸17.5 排16 | 吸18.5 排16 | 吸13 排11.5 | 吸19.5 排16 | 吸13 排11.5 | 吸14 排11.5 |
バルブタイミング(IO、IC、EO、EC) 度 | 20、30、30、30 | ? | 30、40、30、30 | 30、40、30、30 | 30、40、30、30 | 26、41、38、26 |
バルブリフト o | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
バルブ挟角 度 | ? | ? | 吸36 排36 | ? | 吸36 排36 | 吸36 排36 |
カムシャフト駆動方式 | スパーギア | スパーギア | スパーギア | スパーギア | スパーギア | スパーギア |
点火プラグ径 o | 10 | 10 | 8 | 10? | 8 | 8 |
圧縮比 | 9.9(10.5) | 10.9 | 10.2 | 10.1 | 9.3 | 10.2 |
ピストンリング数、幅 o | 3、0.8 | 3、0.8 | 2、0.8 | 2、0.8 | 2、0.8 | 2、0.8 |
クランクシャフト平均軸径 o | 15.8 | 15.8 | 15.6 | 12.9 | 12.9 | 12.8 |
ボアピッチ o | 54o | 54o | 54o | 54o | 45o | 45o |
キャブレター | ケイヒン ピストンバルブ16o | ケイヒン ピストンバルブ16o? | ケイヒン ピストンバルブ | ケイヒン ピストンバルブ | ケイヒン ピストンバルブ | ケイヒン フラットバルブ |
点火方式 | マグネト | マグネト | トランジスタ | トランジスタ | トランジスタ | トランジスタ |
最高出力PS/rpm | 10.5/17000 | 11/18500 | 11.8/18500 | 11/19000 | 12.2/19000 | 12.6/19250 |
変速機段数 | 9速 | 9速 | 公称は9速、技術者によると50cc2気筒の変速機段数は最大12速とのこと(オートスポーツ1978-7-1)。9速は「9速以上」の意味だろう。 | |||
タイヤサイズ (前/後) |
2.00-18/2.25-18 | - | 2.00-18/2.25-18 | − | 2.00-18/2.25-18 | 2.00-18/2.25-18 |
ブレーキ (前/後) |
1リーディング(キャリパー)/1リーディング | - | キャリパー/1リーディング | - | キャリパー/1リーディング | キャリパー/2リーディング |
エンジン開発 開始時期 |
1962年6月 | 1962年7月 | 1963年1月 | 1963年4月頃 | 1963年8月 | 1964年6月 |